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第19話 魔界コンビニ«アザリコ»其の四

オープンから1週間が過ぎ、セールも終了したアザゼルの店«アザリコ»

オープン1週間の売上目標は金貨140枚だが、どうだったのだろうか。


「……!?」

「アザゼル、どうだ?」

「グルナしゃま!た、大変ですのん!!」


結果は金貨450枚ちょっと。売れすぎである。

今後も様々な販促活動は予定しているが、日商が金貨30枚程になる様なら新たに求人をしなくてはならないだろう。


この1週間は休みなく営業したが、週に1度は定休日を設定してある。

週に1度の定休日とローテーションで休みを取ってもらい週休2日にするのだ。

コンビニとはいえ、24時間営業にするつもりも無い。

魔界の住人は基本的には不老だが、仕事ばかりしていてはつまらない。

人間同様に、時間と健康が財産なのだ。


「グルナしゃま、この商品は何でしゅか?」


小さな箱に入っていた商品。

煙草である。


「これを売ると売上が上がるんだ」

「?」


ターゲットは”狂気の女王”魔王アルトミア。

俺は地上世界の王達の部屋に転移門を開通させて来たのだ。

王のみが自由に異世界を行き来出来るようになり、莫大な財力を持ちアザゼルが大好きなアルトミアは店の常連になるに違いない。

カウンターの目立たない場所で、ひっそりと販売するのだ。


「グルナよ!例のブツは販売開始したか!?」

「もう入荷してるぞ」


早速アルトミアが現れた。

アルトミアはアザゼルを指名し、煙草やチョコなどを購入する。

釣りを受け取る時に手を握るのも忘れない。変態である。

今後のシフトも確認し、アルトミアは帰っていった。水商売ではないのだが予定通りアザゼル目当ての客を1人確保だ。


この日も売上は金貨28枚程、求人しよう。


「ご主人様ー、お客さんが城に来てるよー」


ムックから伝言だ…

俺は店の手伝いを中断し、城に向かった。



………………………………………



城に着くと、待っていたのは人間だった。

小柄で黒髪…何処にでも居そうな男子高校生って感じだ。

しかし、魔界で人間に会うのは初めてだ。


「お前が魔王か!」

「?…そうだけど、てかお前誰?」

「俺は大澤ケンジ!勇者だ!!」


コイツは多分だが面倒臭いやつだ…

転生してから初めての勇者様。

最初に転生した地上世界に人間は居たが、勇者という存在は居なかった。

勿論、過去に魔王を討伐に成功した人間の国は有ったが、討伐されたのは非戦闘向きの魔王だったりで勇者の様な特殊な人間がいた訳ではない。


「俺を討伐に来たんだろうけど、その前に1つ聞かせてくれ」

「ん?何だよ」

「ケンちゃんは何で魔界に居るの?」

「それは……」


この大澤ケンジという勇者は死亡し、異世界へ転生。その転生先の世界で勇者試験に合格し、その世界の魔王の元に転移したはずが全然関係ない場所…俺の支配する魔界に飛んでしまった様なのだ。

そこに運良く魔王は存在していた。それが俺である。


「お前帰れるの?」

「それは…」

「お前腹減ってない?」

「昨日から何も食べてないけど大丈夫だ!いいから勝負しろ!!」


やむを得ん。

勇者は魔界の謎の生命体に追い回され装備はボロボロ、空腹で気力が尽きかけてるが相手をしようと思う。


奇しくも同じ世界から転生し、異世界で特別な存在と成った2人に訪れた運命…

聖魔大戦のクライマックスを彷彿とさせる場面に俺は少しだけ胸の高鳴りを感じていた。


「勇者ケンジよ!よくぞ此処まで辿り着いたな!!だが、世界を救う事は出来ぬぞ!!貴様は此処で死ぬのだ!!」


厨二病の様なポーズを取る俺に真面目に応えてくれる勇者…意外と良い奴なのかも知れん。


「お前を倒し世界を解放する!!」


バカか…お前の転生先の世界で悪さしてるのは別の魔王だろ!と言いたいが、だんだん楽しくなって来たので、もう少しだけ付き合うとしよう。

剣を構える勇者ケンジの周囲の空気が揺らめき出し、剣が光を帯はじめる。巻き起こる風が、これから繰り出される技の威力を伝えてくる。


「くらえっ!!秘奥剣!”千本桜”!!」


幾つもの剣閃が同時に発生する予測不可能な斬撃は重く予想以上の鋭さを持っていた。

(お!?結界が消滅した!)


「ぐわっ!勇者の力がこれ程のものとは!!無念なり…」


大袈裟に倒れ伏す俺を見下ろし、満面の笑みを浮かべる勇者ケンジ。

強力な斬撃に薄く纏った結界は破壊されたが、俺の専用防具”光輝”の胸当には傷1つ付けることは出来ない。

セレネやベレト達は椅子を用意しポテトチップスを食べながら茶番を楽しんでいる。

そして、勇者ケンジに悲劇は襲い掛かる。


「なーんちゃって!隙ありっ!!」

「うわっ!?」


倒したはずの魔王が突如起き上がり、勇者ケンジの顎にデコピン一閃。

勇者ケンジの見たものは、起き上がる地面。

1発のデコピンは顎を撃ち抜き、その瞬間、勇者の意識は脳の外に追いやられたのだ。


「ベレト、勇者を牢屋にぶち込んで食事を与えてやれ」

「承知しました!」


名前からして、元日本人。

人間が特殊な力を持ち、活躍する世界があるとは興味深い…

ケンジは気力だけで立っていた様な状態だ。食事を与えて、体力が回復したら話をしようと思う。


………………………………………



数時間後。


魔王から支給された牛丼で見事に復活した勇者、大澤ケンジは王の間に連行されていた。


「お前…牛丼オカワリしたらしいな」

「……だって腹減ってたから」

「…食事代150万円な。言わなかった俺達も悪いが、無料かどうか確認もしないで食べたお前も悪い」


驚いた様な、怒っている様な、泣き出しそうな…曖昧な表情を浮かべる勇者ケンジ。

(やっぱり魔王は汚い奴だと思っただろうな…)

「冗談だ。タダ飯食わせてやったんだから質問に答えろ」


安堵の表紙を浮かべる勇者に幾つか質問した。

出身地、職務経歴、異世界経歴、今後の活動についてだ。


出身地は日本。

2017年に車に轢かれ、気が付いたら異世界だったそうだ。

見た目通り、事故当時は高校生。

転生してからは、剣術に目覚め勇者試験をトップでクリア。

世界の存亡を賭けた魔王討伐作戦で魔王城に転移するはずが、何故か異世界へ…

魔王を倒し、元の世界に帰る方法を聞き出す予定だったそうだ。


「俺も日本からの転生者だ。メシ代150万円でピンと来てくれよ…」

「そう言われれば、そうですね!」

「………………」


すごく嬉しそうだ。

問題は、ケンジが帰れるかどうかだが…

俺は地上世界と魔界は行き来出来るが、ケンジの居た世界には干渉出来ないのだ。


「グルナさんも方法知らないんですか!?」

「うん、すまないが全くわからん」


俺も楽しかったので、さっきの件は不問にして…帰れないならサタナス国の住人になるか野垂れ死にするか2択な訳だが…


「どうする?」

「グルナさん…帰れるまで面倒見てください…」


意外と素直な奴だ。

家と仕事を与えるとしよう。元の世界では勇者として讃えられていたかも知れないが、この世界では無意味。

誇りだけで飯を食うことは出来ないのだ。


「ケンちゃんはバイトとかした事あるか?」

「コンビニでバイトしてました!」

「よし!早速、面接だ!」


こうして、超悪魔アザゼルの店«アザリコ»にて、何処かの世界で人類最強の男、勇者ケンジの面接が始まるのであった。



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