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第127話 即位の儀式前夜

2日後に迫る魔界の世代交代。


即位の儀式。


魔王は、眠れぬ夜を過ごしていた。


「一体どうしたらいいと思う?」

「…………//」

「え?お前達の居住区に?それは有りかも」


謎の生命体に相談する魔王。その心配事とは、引退後の住処であった。

地上世界のディーテは、魔界に移住し共に生活している。

クロエが魔界の支配者となった暁には、当然、城を空け渡すつもりなのだが……その後を静かに暮らす新居が無いのだ。


(ヤバい。これは怒られるパターンじゃないか?適当に指示して、仮設でも良いから即席のやつを準備させるか?)


それはそれで怒られるだろう。

そう思った魔王は、敵性国の城を奪い取ってやろうと考えた。


「う…ウヒ…ウヒヒヒヒッ!殺ってやる!!魔王に歯向かう愚か者は”死”あるのみだっ!!」

「だんな様?何バカな事を言ってるんですか?ゴハン出来ましたよ?」


突然入って来たリリアを見て、固まってしまう魔王。


「リリア……ごめん……」

「え?何が?」

「引退後の新居の手配忘れてた……」


固まったかと思えば、今度は仔犬の様にくっつき泣き始める魔王に、リリアは優しく提案した。


「即位の儀式が終わったら、新居の建設を指示して、私達は完成まで色々な世界をのんびり旅行したらいいじゃありませんか//」

「その手があったか!!もうどうしたらいいか訳分かんなくなって……3人に怒られるんじゃないかとか、そんな心配ばっかしてて……」

「大丈夫。よしよし//」


結婚して15年以上経つが、片手で足りる程しか見せない姿。

百戦錬磨の魔王が、妻達にのみ見せる残念な姿である。

(常時、魔王を監視している黒ムックも見ているが、無様過ぎて誰にも言えない)

不安定な精神状態の魔王は、最早何を言っても疑う事はないのだ。

それが、リリアの精神支配なのかは不明ではあるが。

果たして、旅行先が殺害現場になってしまうのか、それとも……


……………………………………………………


即位の儀式前日。


城には、各国の王族が到着していた。

クロエが赤ん坊の頃からの付き合いなので、硬っ苦しさは無く、皆、気楽に他愛も無い話を楽しむ。



そんな中、王妃達も他愛の無い話を楽しんでいた。


「そういいえば……昨日、久しぶりにワンコが現れました//」

「え!?私も見たかったな……」

「ディーテ、ムックが記録してるわ。後で楽しみましょう//」


王妃達は、弱った魔王をワンコと呼び楽しんでいる。

勿論、魔王は知らないが、知ってしまえば殺すまでもなく、勝手に死ぬだろう。


「ん?魔界にも犬の様な生命体が居るのか?」


狂気の女王 魔王アルトミアである。

アルトミアは、魔王オルフェの側近であるケルベロスを無理矢理連れて帰る程の犬好きだ。

その手の話には敏感なのである。


「その生命体は、わんぱくか?」

「弱ってる個体しか見たことないですよ//」

「……わんぱくな方が好みだが、弱っていてもよい。くれ」

「滅多に現れないんです//私達も2、3回しか遭遇してません//」

「嬉しそうじゃな。

捕獲したら連絡せよ。話は変わるが、クロエが魔王になるとはな……お前達も心配で仕方ないと思うが安心せよ。

妾は、惜しみなく支援をするつもりじゃ」

「是非、お願いします//」

「お前達はどうするつもりなのじゃ?暫くマカリオス王国に滞在しても構わんぞ?」

「のんびりと、夫婦水入らずで旅行しようかと思ってます。アルトミア様の国にも立ち寄りますわ//」

「また良からぬ事に巻き込まれぬ様、気を付けるのじゃぞ?」

「そうですね。今回の件、命を落としていても不思議ではありませんでしたし……」


急に深刻な表情になる王妃達。

その心の中は、魔王を殺害する事でいっぱいなのだ。

場所、手段を問わず、確実にあの世に送る方法が必要だ。

早々に自室に戻った王妃達は、魔力増殖炉を見つめながら、明日の予定を確認する。


「第1弾は、予定通り祝賀の晩餐の前に仕掛けるぞ!」

「ダメだったら、旅行先で息の根を止める……ですね?」


一夫一婦制なら、妻1人で全てを実行するのは不可能に近く、行動を起こす前に阻止出来たかも知れない。

しかし、魔王は一夫多妻制だ。

絶大な権力を持つ妻が3人も居るのだ。

情報が漏れるリスクのある協力者や、支援者など必要とせず、妻達は、遂に今日まで隠し通した。


魔王の命が尽きるまで、あと1日。



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