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第126話 ほくそ笑む王妃達

「永遠の別れではないぞ?たまに遊びに来るしからな!じゃ!」


1週間行われた宴も終わり、旧家臣達や息子夫婦に見送られ、ディーテは魔界へ旅立った。


魔界に着くと、魔王は会合に出席し留守だったが、サタナス国の幹部達は勿論、リリアとアリスが出迎えた。


「お待ちしてました//」

「うん、早速部屋で実験しよう//」


城内で唯一の魔王立ち入り禁止区域である王妃の相部屋へ移動した3人は、未だ満たされない水晶の前に集まった。


「コレ、頑張って作って来たぞ。エーテルの結晶だ」

「これがエーテルの結晶……」


ディーテは、赤い宝石の様な結晶を見せた。

エーテルとは、宇宙を含む全ての空間に極微量だが存在する謎物質である。

嘗て、天空の神殿への転移装置を稼働させる際に使ったエーテル。

それを操作出来る唯一の能力を持つディーテは、最近その物質の役割に気が付いたのだ。


「エーテルは、魔力を生み出していると思うんだ」


世界を満たす魔力、その出処は長年謎に包まれていた。

(と言うか、誰も気にしていなかったのだが)

だが、その謎は解明されようとしていた。

魔王殺害を目論む妻の一人ディーテは、自身の能力”エーテル操作”を用いて強力な魔法を創造しようと試行錯誤を繰り返していた。


そんなある日、自室の魔力濃度だけが異常に高くなっている事に気が付く。

その事に気が付いたディーテは、エーテルの結晶化を試みたのだ。


一見、安定している様に見える結晶だが、実はかなり不安定な状態で、衝撃を与えれば瞬く間に霧散してしまう。

だが、水晶の中ならば消えて無くなる事も無いだろうという何の根拠も無い仮説に身を任せ、ディーテは、その赤い宝石の様な結晶を水晶に入れた。


水晶の中央に浮遊するエーテルの結晶は、特に変化を示さない。

液体の状態で蓄積されていく魔力も、量的には変化無しだ。


「どうしましょう。確かに、水晶内の魔力濃度は濃くなったとは思いますが……」

「うん、ここまでは予想通りだ。仕上げにコレを入れてみようと思う」

「何ですか?」


ディーテは、小さな瓶を取り出したのだが、中に入っていたのは蜘蛛の様な何かである。


「……クモさん?」

「フフフ、ただの蜘蛛じゃないぞ?これは”雷霆”で発生させた蜘蛛モドキだ」

「あ!!まさか邪神が召喚したハエを殲滅する時の!!?」


その、まさかであった。

雲の割れ目から這い出て来た、蜘蛛の様な意思を持つ雷。

ディーテは、目の前を徘徊する雷で出来た小型の蜘蛛を回収し、雷の魔法を餌に10年以上飼育していたのだ。

アリスとリリアは思った。


”そんなヤバいの、よく捕まえようと思ったわね……”


「これは実験だ!失敗は付きもの!早速入れてみよう!!//」

「「…………」」


ディーテは、水晶の中に蜘蛛モドキを放った。

予想では、大量の魔力を発生させるには神の力が必要となる。

そして、地上世界の創造神がゼウスならば、鍵を握るのは”雷霆”以外に存在しない筈なのだ。


様子を観察する王妃達。

水晶の中を動き回り、やがて蜘蛛はエーテルに気が付いた。


「クモめ!やっと気付いたぞ!!頑張れ!//」

「クモさん頑張って!!// 」


気が付けば、蜘蛛モドキを応援していた王妃達だったが、その応援の甲斐なくエーテルに蜘蛛モドキが触れた途端、結晶化していたエーテルも蜘蛛も消えてしまったのだ。


「あ……消えちゃった」


落胆する3人。

まぁ、期限までに自分達で魔力を貯めればいい話なので、諦めて地道に貯める事に。


「さて、みんなで晩ごはんの買い出しでも行くか」


王妃らしからぬ発言だが、これが魔王と生活する時の彼女達の日常なので仕方無い。


部屋を出ようとしていた3人は、背後に異様な気配を感じ、振り返った。

先程まで無反応だった水晶が、化学反応……いや核融合の様に光りだしたのだ。


「これ大丈夫なのか!?」

「え!?ディーテも分からないんですか!?」

「と、とにかく万能結界で覆うわ!!」


怯むディーテとリリアを後目に、万能結界を展開するアリス。

水晶を結界で覆い、何とか冷静さを取り戻す。

暫く様子を見ていると、光は収まり、水晶の中央には紫色の球体が浮かんでいた。

その球体ばかり気にしていたが、ふとリリアはある事に気が付いた。


「……ねぇ?水晶満たされてない?」

「「!!?」」


実験開始前は30%程だった魔力の液体は、水晶を完全に満たしていた。

試しに少し取り出してみると、すぐに満タンに戻る……



「高濃度の魔力が無限に湧いてる……な」

「……成功を超えてしまいましたね」


一瞬顔を見合わせた3人は、偶然にも手に入った魔力増殖炉に喜び飛び上がった。


「準備は整ったぞ!後は、バレない様に普通に徹するんだ!//」

「「はい//」」


ほくそ笑む王妃達はルンルンで買い出しを済ませ、夕食の準備に取り掛かった。


「ただいまー。ディーテ来てる?」

「「「おかえりなさいませ!旦那様!//来てるよ!//」」」

「お風呂にする?ゴハンにする?それとも……もう少し仕事する?」

「お風呂→ゴハン→みんなで寝る!!」

(もう少し仕事ってなんだよ……。わ・た・し?♡だろ普通)


久々に上機嫌な妻達に、魔王は戸惑ったのだった。

準備が整い、儀式の日が来るのを指折り数える妻達。

遂に、その日がやって来てしまう。

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