第125話 王位継承 ネモフィラ連邦国編
ある日、ネモフィラ連邦国女王から各国に親書が届いた。
王位継承の儀式、その招待状である。
水面下で日程の調整を進めていた様だ。
その親書は、勿論、魔界にも届いていた。
「遂に来たか……」
「ラクレス様の晴れ舞台ですね//」
「あぁ、魔王軍からも警備の応援を送ろう。ミダスに編成を指示しておいてくれ」
幹部の1人ライカは、同行する護衛と警備に加わる兵員の手配に着手する。
タイトなスケジュールだが、いよいよ地上世界に新たな王が誕生するのだ。
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儀式の2日前。
魔界よりも一足早く王位継承が行われるネモフィラ連邦国では、女王ディーテがラクレスの従者……即ち、エキドナ、カラ、ジーノを私室に呼び出していた。
「3人に問う。お前達は、即位の儀式で何処に座るつもりだ?
各国の王族と並んで座るのか?
それとも、従者として脇に控えるか?
それとも……連邦国の王族として、私側に座るつもりか?」
「「…………」」
初めて見せる女王の冷たい表情に、3人は言葉を失う。
「もう1つ問いたい。私が、お前達をラクレスの妃として認めると1度でも言ったか?思い出してみよ」
俯く3人は、必死に記憶を辿る。
しかし、言われてみれば……
1度も、その様な発言は無かった。
「「…………」」
エキドナは、静かに話し始めた。
「仰る通りです。女王様から王子との婚約を認めるとの御言葉を戴いた事はありません。
従者としては認めていただいたものの、それを過大に解釈していた愚かな我々を、どうかお許し下さい」
「その通りだ。お前達を従者としては認めたが、妃として認めた覚えは無い。
女王の許しも無く、その様に先走る無礼者は極刑に処さねばならんな!!上杉!持って参れ!!」
帯刀した上杉が部屋に入って来る。
3人は、目を閉じ思いを巡らせる。
大切な一人息子、その従者如きが妃として認められたと勘違いし有頂天になっている様は、一体どれ程目障りだった事だろうか……と。
最早、斬首は免れないと覚悟を決める3人。
部屋には、更に大勢が入って来る足音が聞こえる。
大きな足音も聞こえ、それは巨神族だと分かった。
3人は、何れも自動防御結界が発動する。
一般の兵士では、斬首どころか傷を付ける事さえも難しいのだ。
「……良い夢が観れました」
次の瞬間、3人の頭に何かが載せされた。
「言い訳の一つもしないんだな。流石だ」
「「……?」」
3人の頭には、女王とお揃いのティアラが載せられていた。
「私の迫真の演技はどうだ?びっくりしたか?娘達よ」
「!?……これは」
戸惑う3人に、ディーテは言った。
「なんか言うタイミング無くてな。私は、もう3人の事を家族だと思ってるからな」
「……もう!お義母様の意地悪!!」
謝りながら、3人を抱きしめるディーテ。
「私は、即位の儀式が終わったら国を出る。
ラクレスを頼んだぞ?」
「お義母様……」
即位の儀式当日。
各国の国家元首や異世界の支配者が見守る中、即位の儀式が始まった。
嘗て、地上世界を統治していた巨神族が天空の神々に反旗を翻し、そして訪れた戦乱の時代。
それは、巨神族敗退後も終わる事は無かった。
巨神族に代わり、地上世界を統治する為に送り込まれた神々の分身を、人間達は恐怖の象徴”魔王”と呼び、火種となった。
人間は、”魔王”になる可能性を秘めた人外を”魔王種”と呼び、排除に動いた。
幾度も繰り返される殺し合いの末に、地上世界を平定した”魔王達”
その中でも、地上世界に存在する知的生命体を垣根を越えて共生させる事に成功し、現在の姿に導いた魔王……愛と美の化身ディーテ。
その魔王が世代交代するのだ。
「ん?おじいちゃんも来てくれたの?」
「おう!何せ初めての世代交代だからな!ラクレスのために頑張って王冠作って来たから楽しみにしとけ」
創造神にして最高神、ゼウスである。
ゼウスの横には、神々しい女性が一人。
世界の意思も控えている。
2人は、祭壇の上で女王の登場を待つ。
王冠を被った女王が静かに入場し、最高神の前で跪いた。
「ディーテよ、大義であった。
お前が創り上げたこの国は、新たな王の元、末永く繁栄するだろう」
ゼウスは、王冠を取りティアラを被せた。
「我等の加護は、お前を守り続ける。
新たな旅路を存分に楽しむがいい」
こうして、ディーテはネモフィラ連邦国女王から魔界の王妃になった。
ディーテが祭壇から降りると、いよいよ新たな王の登場である。
白系の鎧を装備し現れたラクレスは祭壇に登り、ゼウスの前で跪く。
「ラクレス、立派になったな。
この国をしっかり導いてくれ。おじいちゃん達も陰ながら応援するからよ」
「おじいちゃん……いえ、ゼウス様。
母の愛したこの国と民を守り、世界の秩序を守り続けます」
ゼウスの用意した”帝冠”を授かるラクレス。
会場から惜しみない拍手が贈られ、息子の成長に感動し号泣する魔王。
ゼウスと世界の意思が祭壇を降りると、ディーテは祭壇に登った。
祝賀の晩餐が始まるとばかり思っていた出席者は、何が始まるのかと固唾を呑んだ。
扉が開き、現れたのは数名の巨神族に護られ、純白のドレスに身を包んだ3人の女性達。
「みんな、突然だが、この3人は国の王妃となる。
これは私の最後の我儘だ。
証人になってくれ//」
祭壇に登り、ディーテの前で跪く3人に王冠が贈られる。
「私達は、新たな王とネモフィラ連邦国にこの身を捧げ、真心を尽くす事を誓います」
3人が誓の言葉を述べる中、突如、魔王オルフェが立ち上がった。
ビビる兵士達。
「今日は……何と目出度い日なのだ!!」
「ちょっと!オルフェたん!やめて」
号泣していたのだ。
刹那とケルベロスに会場の外へと連れて行かれる魔王オルフェ。
悪そうな魔王の、涙脆い意外な一面に会場からは笑い声が漏れた。
城下町では歓声が上がり、地上世界の至る所で新たな王と妃の誕生を祝う宴が行われたのだった。
ネモフィラ連邦国の女王を退位したディーテは魔界に移住し、夫の国サタナス国で暮らし始めていた。
月末に王位継承を控える中、3人揃った王妃達は魔王暗殺計画を更に加速させるのだ。