第115話 神界にて
魔界に戻ったオリオンが向かったのは、王の間。
玉座には、寝間着姿で心を病む魔王の姿があった。
威厳もクソもあったものではない。
ツッコミどころ満載だが、今は魔王と配下という立場、特に言うことはしない。
「魔王、御伽の世界に駐留している部隊に撤退命令を出しました」
「?……詳細を聞かせてもらおうか」
オリオンは、ゼウスから聞いた事と、駐留軍司令官として今回の判断を下した根拠を説明した。
「恩も義理も無い御伽の世界に、そこまでしてやる必要は無いと?」
「仰る通りです。兵士の命を危険に晒すつもりはありません。
我々が駐留しているのは、王女が統治し易い様お膳立てする為であり、御伽の世界を脅威から守る為ではない筈です」
「その意見には俺も賛成だ。撤退完了後、休暇を取れ。以上だ」
「は!失礼します」
王の間から出たオリオンは、目の前の柱を殴り付けた。
対物魔防御結界が、何層にも重なり合っている柱に入る大きな亀裂……
その音は、王の間にも響いていた。
「瓜の蔓に茄子はならんなぁ……」
…………………………………………………
翌日。
今日は、腕組みデートの日。
それは、喫茶店でモーニングを楽しむ事から始まるのだ。
ムックが復活してからは、クロエはとても元気になった。
そのムックだが、クロエの頭にくっ付いていたり、肩にくっ付いていたり……常に俺の視界に入ってくる。
「ねぇパパ?」
「ん?」
「今日は、おじいちゃんの家に遊びに行かない?」
「えーー!?嫌だよ!ゼウスの……トコなん……よし!行こう!!」
(チョロいわ//)
常に視界に写り込んでいたムックが見えなくなる程の、眩しい上目遣い。
恐らく、クロエにはチョロいと思われているだろう。
だが、構わない。
俺は、King of bakaoyaなのだから。
バカ親の王様は、ゼウスの家に行きたくなかったが、上目遣いでお願いされただけで自動的に、無意識的にゼウスの家へ向かうのだ。
「おじいちゃん!//」
「クロエ!よく来たな!//」
「おい!俺は無視かよ!!」
無視されても一向に構わんのだが……
クロエは、神界に着くと直ぐにゼウスとポセイドンと共に何処かへ行ってしまった。
俺もゼウスに用事が無いわけではないのだが、まぁいいだろう。
独りでボーッとしていると、世界の意思が来た。
「グルナ様、お茶でも如何ですか?//」
「呼ばれよう」
世界の意思とお茶をしていると、話は御伽の世界の事に。
「神に捨てられた世界って、最初は何の事かと思ったけど。そりゃ管理者不在にもなるな」
「えぇ、熾烈な戦いでした。大勢の神が滅ぼされましたし」
「封印以外に、手は無かったのか?」
「有ったのかも知れませんが……間に合いませんでした。
”レーヴァテイン”という武器です。
ロキが鍛えた武器ですが、スルトの配下に襲われて持ち去られてしまっているのです」
レーヴァテインを完成させたロキは、それをオーディンの元へ運ぶ途中に襲われ、武器と共に消息不明だそうだ。
恐らくだが、生きてはいないだろう。
しかし、厄介な話だ。
ヤバいのはスルトだけかと思っていたが、配下も神を殺せる程の力がある。
「ゼウスは封印の様子を見に行っただけ?」
「何とかしたいと思ってはいる様ですか……」
苦笑いする世界の意思。
同僚の仇でもあるのだ。そりゃ何とかしたいだろう。
「グルナ様の封印は何時解けてしまうのですか?」
「…………」
(俺の封印?離婚は何時になるのかって事だろうか……)
はっきり言っておかなくてはなるまい……
俺から離婚を切り出す事は、絶対に無い。
つまり、君との入籍も、愛人関係も絶対に無いのだ。
変な雰囲気になりかけた時、いいタイミングでクロエ達が帰って来た。
「グルナ。すまねぇが、ちょっと力を貸してくれ」
「パパ。私は、おじいちゃんの仇討ちの手伝いをするわ!(その結果、御伽の世界を救うわ!)」
「神様に頼まれると、ここまで断りにくいとはな。行くよ」
(瓜の蔓には瓜しかならないか……益々楽しみだ)
俺達は、魔王城に戻り作戦会議を始めるのであった。