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第113話 戦後処理を息子に任せて 2

妻達が殺害計画立てているなど知る由もない魔王は、最も怒っていると思われる妻アリスに自分の気持ちをぶつけるが……

王妃の部屋を、秋の気配を感じさせる一陣の風が何処からともなく通り抜けていく。


「…いい風ね」


週末に開かれる夜会の澱んだ空気は無く、ただ、心地良い風が吹いていた。


”アリス?城に居るか?”

「えぇ、部屋に居るわよ?」

”少し話がしたい。大事な話なんだ”

「……分かったわ。旦那様の部屋で待ってる」


心做しか声のトーンが低い……

アリスの心に、一抹の不安が過った。


まさかバレてしまったのだろうか……。


そんなはずは無い。

そう自分に言い聞かせ、アリスは心を落ち着かせようとする。

その心を、魔王旦那様に悟られない様に。

窓際に立ち、夜景を眺めながら気持ちを落ち着かせた。


やがて、久しぶりに顔を会わせる夫婦。

先に口を開いたのは夫だった。


「アリス、まだ怒っているのか?助ける順番は、俺なりに考えに考えての結果なんだ」

「えぇ、怒ってるわ。……分かってるけど悲しかった。

私が1番最後だったなんて」

「すまない。アリスが怒るのも分かるが、それ程までに不機嫌なのは、何か別の事があるんじゃないのか?正直、俺はアリスが何を考えているのか分からない。俺の事が嫌いになったのか?」

「私は竜よ?竜は相手が死ぬか、自分が死ぬまで添い遂げるわ」


ドンッッ!!


魔界最強の壁ドン……

魔王自身が構築した対物魔防御結界を難無く破壊し、城が倒壊するのではないかという程の衝撃。

壁ドン直後、アリスの背後の壁は大きく大破したのだ。


「!!?」

「有耶無耶にしないでくれっ!

俺は……出会った時のクーデレなアリスも好きだ。

でも、今のアリスはもっと好きだ。

来年のアリスは、もっともっと好きだ。

これが俺の気持ちだ……

アリスの気持ちが聞きたい」

「……私だって旦那様が大好きなんだよっ!!

でも……」


何かを言いかけたアリスは、窓から飛び降りると、竜化し飛び立ってしまった。


「アリス!?」

「晩ごはんの買い出し行くのっ!順番の事は許してあげる!」


アリスは、その言葉通り買い出しに行っていた。

しかし、食材の買い出し程度で竜化する必要があったのだろうか?

勿論、必要無い。

アリスが竜化したのは、魔王に悟られない様にだ。

複雑な想いが滲む、その表情を悟られない様に。


…………………………………………


その頃、御伽の世界では。


「あ?奴隷の分際で”はい”以外の返事をするのか?」

「だって、無理よ……私には力がないもの」


瞳を閉じ、それを静かに聴いていたセレネが口を挟んだ。


「幼いのは身体だけでは無いですものね」


セレネの言葉に、噛み付くカーラ。

負けん気の強いカーラが、奴隷の分際と言われ、幼いと言われ、黙っている筈がなかった。


「何よ!私は成人してるんだから!!

あんた!ちょっと美人で、ちょっといいオッパイだからって調子にのらないでよねっ!!

……ちょっと触ってみてもいい?」

「いいわよ」


ペタペタ……

(くっ……あの3人程じゃないけど、めっちゃ柔らかい……ふわふわしてる!!)


「ま、まぁまぁね!!でも図に乗らないでくれる!?私だって後何年かしたら罪なオッパイになるんだからっ!!」

「カーラ?今はその話じゃ……」

「ローラは黙ってて!やってやろうじゃないの!国王でも何でも!!」


余程悔しかったのだろうか。

カーラはローラを連れて部屋を飛び出してしまった。

話の続きは、また後日だろう……まぁ、言質は取れたから良いのだが。


セレネを見ながら溜息をつくオリオン。


「セレネ、何であんな事を言ったんだ?」

「何となく、逃げ腰なのが似合わない娘だなと……。

でも、さっきの反応は嫌いじゃないですよ?もう少し話をしてみたくなりました」

「話をするのはいいけど、これ以上揶揄うなよ?」


セレネのイメージは、どんなイメージだろうか。

カーラの目には、優秀で美しい大人の女性に見えただろうか。


この後、セレネは2人を追い掛け、話をするのだが……

その話のおかげで、美しく神々しい従者のイメージが崩れ去る事になるなど知る由もない。


中庭に戻っていた2人を見つけ、セレネは先程の件を謝ろうと駆け寄った。


「カーラ、さっきはごめんなさい。ホントの事言っちゃって……」

「あんた、それ謝ってるつもりなの?それとも喧嘩売ってんの?」

「謝ってるの。私達は、あなたの力になりたい」


力に?この人は、私達の境遇を分かっているのだろうか……

名ばかりの王女……心配どころか、娘として扱われた記憶も無い。何時しか、自分は道具の1つなのだと自覚していた。

ローラに至っては、幽閉され、殺されかける始末だ。

この女性は、その様な経験をした事は無いだろう。

生まれながらに美しく、何不自由無く育ち、王子の傍に仕え……きっと愛情を一身に受けて育ったに違い無い。


「あんた、20代前半ってとこね。

私達は10代後半だけど、あんたより苦労してるわ!軽々しく力になりたいなんて言わないでくれる?」

「え?私は400代前半だけど」

「……あんた、ぶっ殺されたいの?400歳超えてるなんて信じると思う?」

「私は不老なの。でも、信じられないのは分かるわ」


徐にマントを外したセレネは振り返り、背中を見せて来た。

背中が大きく開いた服から見えたのは、白く透き通る肌と大きな傷……

それは裂傷では無かった。

明らかに刺傷。恐らく、巨大な刃物で身体を貫かれ痕だ。


「あんた、それ……」

「驚いたでしょ?400年以上の歳月を経て辿り着いた……このクビレ!!」

「…………」

(傷じゃないの?)

「私は想像を絶する苦労をしたわ……御伽の世界とも魔界とも違う世界の超大国、ネモフィラ連邦国の守護神を務める傍ら、日夜ウォーキングと体幹トレーニングに励み、そして手に入れたクビレ!!」


当時を思い出し涙するセレネ……

勿論、傷については触れる気配は皆無。

開いた口の塞がらない2人を無視し、セレネは更に話を続ける。


「あの日々は辛かったけど、私は遂にオリオンを射止めたわ……

だから、あなた達にも分かって欲しいの!

自分の可能性()を!ソレを信じ続けた先に待つ結末をっ!!

そして、私はその手助けが出来る!」

「…………」

(カーラ?この人もしかして……)

(えぇ、間違いないわ。この女はポンコツよ)


残念美人……変な事言わなかったら知的な大人の女性なのに。

でも、悪い人ではないと思ったのだろう。

セレネのバカな話は、2人の心の中にあった魔王軍への不信感を薄れさせていったのであった。


御伽の国を王女達に統治させる計画は少しづつだが動き始めた。

そんなある日、魔王軍の駐屯地に謎の刺客が訪れる。

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