第11話 器の大きさ
アザゼルが週に6日間、あちらの世界…今後、地上世界と呼ぶ事にするが、その地上世界で働き出してから1年が過ぎていた。
「グルナしゃま。お金貯まりまちた♪」
アザゼルは金貨55枚を稼いで来た。
何度か様子を見に行ったが、雑貨屋と焼肉屋のバイトを掛け持ちしていたのだ。
バカ親の俺は目頭が熱くなる訳だが、感動している場合ではない。
早速、店のコンセプトについて話し合いを行う。客層は魔界の住民達をメインに想定している様だ。普段使いする身近なお店という感じらしい。
取扱う商品だが、食料品から日用品、嗜好品まで幅広く取り揃えたいらしい。
店の外観や内装については、絵に書いて来るそうなので、それをベースに図面を引いてもらう。
問題の土地なのだが、立地は非常に大事なのだ。そもそも、いい空き地が見つからなければ開業出来ない。
バカ親な俺は、アザゼルがスムーズに開業出来るように、良さそうな土地を数箇所押さえておいたのだ。
「後は、お店の名前を考えておいてくれ」
「アザリコですのん♪」
決めてあった様だ。
アザゼルと…何かの造語だろうか?
後日、地上世界の物で店に置きたい商品や原料として使いたい物を見に行く事になり、開業に向けて一気に動き出したのであった。
……………………………………
翌日、ベレトからスパイを拘束したと報告があった。
「グルナ様、スパイ容疑で1名拘束しました。恐らく、アロカス国の者かと…」
「アロカス国?」
アロカス国とは、魔界の西にある大国。
地図で見る限り、かなり遠方の国だ。飛んで来たにしても、かなり時間が掛かるだろう。
サタンが支配していた時も、命令にはあまり従わず非協力的だったそうだ。
「そいつを連れて来い」
見慣れた悪魔だ。
ベレトは何処を見てコイツの出身地を見破ったのだろうか。
後で聞いたが、ベレト曰く、角の形状が各国で違うらしい。
俺には全く分からないが…
「お前は、アロカス国の者か?」
「はい、仰る通りです。サタナス国へは観光に訪れておりました」
「お前には、スパイ容疑がかけられている。この国での滞在を禁ずる。直ちに退去しろ」
スパイ容疑の悪魔は国外追放とした。
しかし、動向は気になるので、カラの監視能力で暫く監視させてもらう事にしたのだ。
どうせ、口を割る様なヤワな奴ではないだろう。取調べ等は時間の無駄なのだ。
友好国ならお咎めは無しでもいいかも知れないが、敵性国のスパイは別だ。
追跡していると、アロカス国へ戻り、自宅に帰るのかと思ったが、寄り道する事なく城に入って行く。
暫く監視を続けて、キナ臭くなって来たら捻り潰しに行こう。折角、街も整って来たのだ、先手を打たせてもらう。
「周辺国の援助も行う予定だ。侵攻してくる兆候があれば、俺が直接対処する。お前達は与えられた仕事に集中しろ」
「了解しました!」
このタイミングで、カラとセレネを交代させるのも有りかも知れない。
カラは範囲攻撃特化、セレネは広範囲防御特化…街を壊されたくはないからな…
そんな事を考えながら、俺は護衛要員の再編の為、森の国へ行く準備を始めたのであった。
……………………………………
森の国。
魔界からカラとオーガ族の兵士100名を連れて戻って来た。
みんな、久しぶりの地上世界だ。
護衛要員の交代もだが、是非派遣して欲しい人材が居るので、その相談も兼ねている。
その日は、幹部達と夕食をとりながら、色々話をしていたのだが…
「グルナ様と夕食をご一緒するのは何時振りでしょうか//」
「カラと交代でセレネに警護をお願いしたいんだ。こっちの方は大規模な戦争になる事は無いしな」
「んー私は、もう少し魔界勤務でも良かったのですが…」
「カラもアザゼルが魔界に戻るタイミングで、また遊びに来たらいいぞ」
「私も妻として、身の回りの事をしてやりたいが、色々予定が詰まってるからな」
ディーテは女王だ、無理をして欲しくない。
今は忙しいが、周辺国の開発と脅威の排除が終われば、俺も時間が取れるだろう。
その時にゆっくり過ごしたらいいのだ。
「なぁグルナ?魔界で寂しくないか?」
「ん?別に寂しくはないけど?やる事多いから忙殺されてるしな」
「こっちの世界では、私のものだけど…魔界では魔界の王妃が必要なんじゃないか?」
「は?」
「いや、ほら。優秀な遺伝子は多く残すべきだと最近思い始めたんだ」
不味い!!
「おい、ディーテ。思ってたとしても、今言うのはダメだぞ!」
非常に不味い!!
場が静まり返り、部屋の魔力濃度が上がっていく。
上杉や巨神族は下を向き、無言で食事をかき込んでいる…明らかに何かを察しているのだ。
魔力の発生源は、カラ、セレネ、エキドナ、メデューサ、ジーノ等。
ジーノとは友好国から派遣された大使だ。
森の国の女性幹部は思った。
自分が忠誠を誓い仕える主は、何と器が大きいのか…森の国の総司令官グルナ様は主のもの…しかし、魔界の王グルナ様は、言わばフリーという認識…それを我々の前で口に出す。即ち、気心知れた、しかも幹部として申し分無い能力を有する我々なら安心だと、そして魔界の王妃としてならお咎めなしだと宣言されたのだ。
ジーノは思った。
マカリオス王国から、駐森の国大使として赴任して10年近くになる。毎日楽しく過ごしてきたが、まさか、この様な予想不可のプレゼントが用意されていようとは…
(この争奪戦、私バリ頑張るし!)
そして、決定的な一言が放たれる。
「魔界だったら、グルナしゃまの奥しゃまに成れるって事でしゅか?//」
「うん、そう言う事だ」
終わった…
「グルナ様!私はもう少し魔界勤務頑張ります!」
「カラ!交代で私が魔界行くのです!貴方は疲れている。暫く休暇を楽しむべきです!」
「駐魔界大使に志願してくるし!グルナ様!私バリ頑張るけぇ!」
ダメだ…幹部は置いて行こう。
精鋭部隊を一個旅団程派遣する許可を貰おう…
コソッと魔界に帰ろうとしたが無理だった。
事前にカラと交代する話を聞いていたセレネは、当然身支度を済ませている訳で…
半ば強引に魔界について来たのであった。