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第104話 御伽の世界13 VS森の貴族ハンス

魔王に右腕と言わしめたベレト。

その理合いを極めた漢の戦いが、今まさに始まろうとしていた。

白を基調に金のライン……豪華絢爛な全身鎧を纏う、森の貴族ハンス。


その眼前には、魔王軍の幹部ベレト。


「俺はハンス。俺の軍は、お前達よりも遥かに速く、そして強い……」

「我が名はベレト。魔王の右腕だ」


魔女に爵位を賜り、森の統治を任されていたハンス。敵将の最側近を相手取り、湧き上がる興奮を抑えきれない。


よくぞ現れてくれた……


この男を始末すれば、魔王とやらも黙っておるまい……

魔王の首を献上すれば、姫を手に入れられるやも知れん。

仮に、魔王を取り逃したとしても、こやつの首で新たな領地は手に入る……


血圧の高いハンスとは対照的に、落ち着いた佇まいのベレト。


ベレトは、思い出していた。

突如現れ、魔王に瀕死の重症を負わせた邪龍ファフニールの一件を。


その日を境に、彼は変わったのだ。

彼の心には、不甲斐無さと劣等感、そして最強への憧れが渦巻いていた。


圧倒的な恐怖を感じ、共闘するなど出来なかった。

出来た事は、ただ助けを呼ぶ事だけだった……


竜王と異世界の守護神の後を追い、戦闘が行われている地点へと戻った。

そこで目にしたのは、死骸となった邪龍ファフニールと……片手を失い、全身ボロボロになった主の姿だった。


その時、感じたのは安堵と後悔だった……


またしても、立ち竦むしか出来なくなっていた自分は、握り締める拳から、怒りと血を滴らせた異世界の守護神に言われたのだ。


”命を賭して王を守るのが貴様の役目であろうがっ!!”


言い返す事など出来る筈もなかった。


その後、回復した主に個別の稽古を願い出た。

理由は、あの日芽生えた、強く在らねばならないという想いだった。


主と竜王は言うのだ。


”正しい行動をとったのだ。自分を責めるな”


落ち込んでいる様に見えたのだろう。

返す言葉は無かった。

いや、有ったが烏滸がましいと思ったから言えなかっただけだ。


私に限っては、慰めの言葉等必要無い。


そう言いたかった。


ただ……”もっと強く在れ”と言って欲しかった。


ある日、完全に回復した主に稽古を付けてやると言われたのだ。

その稽古は、生半可な内容ではなかった。

暗器を含む様々な武器の扱い。

魔力が枯渇しても尚、続けさせられる拷問の様な範囲打撃訓練。

死を感じる体術……


そんな稽古の合間に、主に聞いたのだ。

自分が、主を超える日は来るのかと。


そんなくだらない問に、主は答えた。


”俺は剣術が大の苦手だ。

剣術だけで勝負すれば、お前が勝つだろう”


その日から、夜な夜な自主的に行っていた稽古は、数段激しさを増した。

一体、何度剣を振っただろうか……

手の皮が剥がれようが、終わる事の無い素振り。

日々新調される、振り下ろしに耐えられず曲がってしまった鉄刀。

気が付けば、意識を失って倒れているなど日常と化していた。

そこまで自分を追い込んだのは、主が剣術が苦手と言うのならば、自分が剣に成らねばならぬとの思い……いや、見直して欲しいという想いからだ。


主は、あまり無理をするなと気遣ってくれるが、私に限っては鞭しか必要なかった。

何故ならば、私には空より高い目標と情熱が有った。


そんなある日。


”ベレト、お前の稽古の成果が見たい。

相手は、上位幻獣フェンリルだ。殺れるか?”


私は、降臨したフェンリルの前に立ち、主に申し出た。


”もし、フェンリルを討ち倒せたなら……与えて戴きたいものがあります”


”良いだろう。討ち倒せたなら何なりと申すがいい”


鎖の様な……強力な拘束魔法に左足を絡め取られた刹那、転移魔法で眼前に迫るフェンリルの巨大な魔滅の牙。

しかし、私の斬撃は、まだ亜空間から完全には出きらないフェンリルの首を切断した。


”ベレト、腕を上げたな。最早、俺でも危ういかも知れん。無傷では済まないだろうな”


”ご謙遜を……”


”自分の腕で、自分に深手を負わせるぐらい訳ないとは思わんか?”


”…………?”


”……お前は、俺の右腕だ。

で?欲しいものって何だ?臨時の賞与か?”


”……たった今、頂戴しました”


こうして手に入れた”魔王の右腕”という称号。


その力を、見せつけてやる!!


「我が主、魔王に仇なす者よ……魔王の右腕は、お前達よりも遥かに速く、お前達の10倍は強いぞ!!」


そう言い放ち、単身ハンス率いる重騎兵団の前へ出るベレト。

その様子に、ハンスの血管は切れてしまった様だ。

白い鎧は、赤になり、更に黒へ変化した。

それに同調する様に、背後の騎兵は強化されていく。


巨大な軍馬は、更に猛々しく巨大に……

それを駆る重騎兵の武器は、更に攻撃的に変化し、突撃力の高さを感じさせる……


対するベレトは、2本の剣を握り締めていた。

1本は、普段から愛用してる長めのファルシオンの様な片刃の剣。

もう1本は”多分よく切れるぞ!”と俺が渡した太刀だ。

要は、試作品である。

その2本に、斬鉄のイメージを纏わせていた。


一斉に突進を始めた重騎兵が迫るも、動かないベレト。

しかし、動き出してからは早かった。


「ベレト様の部下として、何度も戦う姿は見て来ました。

しかし、今回の戦闘は目を疑いました。

そのスピードにも驚きましたが、動きが美しかったんです。

相手と申し合わせたかの様に、まるでお芝居の様に、流れる様に切り伏せ続けたんですよ」


躱す、しゃがむ、踏み込む……全ての動きに斬撃が加わり、まるで騎兵が斬られに来ている様な……周囲の兵士達が異様な錯覚を覚える程に洗練された動きで斬り続けた。


ある者は軍馬の胴体諸共、敷き袈裟で両断され……

ある者は軍馬の首諸共、両腕と胴体を両断され……


瞬きする間さえも止まらず、紡ぐ様に斬り続け、数分後にはハンスが残るのみとなっていた。


漸く、一騎討ちとなった時、ベレトは太刀をしまい、愛刀を上段に構える。


「クククッ。その一振に命を賭けねば、勝機は無いと気付いたか?だが、哀れなり」


一際巨大な軍馬に跨るハンスは、躊躇なく全力疾走しベレトを目指す。


渾身の力で振り下ろされたベレトの強烈な斬撃であったが、超重量のハルバードに弾かれた瞬間、無惨にも砕け散った。

全力疾走の勢いを即座に殺し、追撃の態勢へと移行しようとしたハンスは、ほんの一瞬だけベレトとすれ違う格好になった……

しかし、ハンスの駆る軍馬の脚は強靭を極める。

恐らく、その慣性の法則を無視した様な動きに、ベレトは反応しきれないだろう。


ハンスは、そう思ったに違いない。


「俺の方が速く!そして強かったなっ!!」


だが、追撃する事は叶わず、ハンスの首は宙を舞った。


”居合い”


それは、果たして実戦で使用出来る技術なのか?

座った状態から、一閃の斬撃で相手を仕留める、若しくは、相手の斬撃を一の太刀で捌き、二の太刀で仕留める……そんなイメージが強い”居合い”若しくは”抜刀術”と呼ばれる技術だが……

実は、少し違った状況ではあるものの、実戦で使用されているのだ。

その状況とは


出会い頭や、すれ違いざまである。


先程の振り下ろしの際に生じた、体の捻れ。

その捻れを利用し、”腰で斬る”様を忠実に再現するベレトは、鞘にしまっていた太刀を神速で抜剣。

放たれる刃を操る手は、振り終わり直前まで脱力し、飛び道具の様に距離を伸ばす。


その、すれ違いざまに放った抜き付けの一閃が、ハンスと軍馬の首を吹き飛ばしたのだ。


「思わず叫んじゃいましたよ!

単騎で勝利したのにも興奮しましたが、やっぱり”あの技術”ですよ!

いいもの見たー!!って感じでした!」


現場に居合わせたベレトの部下の感想だが、後日、ムックの記録映像を見た俺もアドレナリン全開となった。

陰でコソコソしているのは知っていたが、ここまで強くなっているとは思わなかったのだ。

因みに、今回は剣術に拘ったみたいだが、本来は魔剣士的なスタイルなのだ。

結界を張り、魔法を放ち、斬撃にも魔法を載せる器用なベレトが、突き抜けた技術を手に入れ、更なる高みへ至った。

その成長ぶりを目の当たりにして、良い意味で末恐ろしいと思ったのであった。

善戦するベレトと時を同じくして、ガッジと相対する冥界の王子ディオニス。

恐怖を欲するガッジに、震え上がる恐怖を刻み込んでいた。

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