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第101話 御伽の世界11 VS浦島太郎

娼館に着いた魔王は、間一髪のところでリリアを救出する。

軍と合流しようとする魔王だったが、倒した筈の浦島太郎は復活し、再び激突する事に……

子供達が救出作戦を開始しようとしている頃。


俺は、城下町の娼館に押し入っていた。


「ん?奴隷の首輪を着けた奴が入っていい店じゃね……」

「うるせぇ!どけっ!!」


俺の首に着けられた首輪は、奴隷の首輪らしい……

強制的に支配する操作系ではなく、命運を握られ、従わざるを得ない状況にする首輪とは……相変わらず良い趣味だ。

無数にある個室のひとつに、俺は迷う事なく飛び込んだ。

リリアの魔力を間違える筈がない。


部屋に入ると、浦島太郎の薄汚い顔がリリアに迫っていた。


「浦島っっ!!1ミリも動くなっっっ!!!」


城下町には、雷鳴と怒号が響き渡った。

驚いた浦島太郎の動きが止まった刹那……

その顔は、有り得ない程に大破した。


踏み込みの力を余す事無く伝えられた右のストレート。

潰れる鼻……砕け散る鼻骨と上顎骨。

撃ち込まれた剛拳の威力が減衰し、浦島太郎の顔から離れると同時に撃ち込まれる2発目。


床が陥没する程に……まるで大地を蹴る様にして放たれる左のアッパー。

それは浦島太郎の下顎骨を、いとも簡単に押し潰し原形を留める事を許さない。


白目を剥き、崩れ落ちる浦島を3発目が襲った。

左アッパーの過剰な回転力と体を開く力をフルに使った後ろ蹴りは、2発目で壊れた浦島の顎を再度直撃した。


「リリア!!」

「だんな様!……こ、怖かった……」


俺は、リリアを抱きしめ安心させた。

しかし、これで終わりではない。

後2人……そう、俺はディーテとアリスを救出に行かなくてはならないのだ。

城の周囲には魔王軍が展開している筈……リリアの安全を確保させ、2人の救出に向かわなくては……

幸いにも、此処は城下町だ。

俺は、魔王軍と合流すべく娼館を出ようとしていた。


「お若いの……まだ終わってはおらんよ?」

「…………?」


振り向くと、そこには何事も無かったかの様に無傷の浦島太郎が立っていたのだ。

齢100は越えているであろう老体に対し、過剰とも言える3連撃を放ち、何れもクリーンヒットしたのだ。

生きているだけでも奇跡なのである。


「お前も武闘会の名簿に名があったのう?

どうじゃ?場外じゃが手合せせんか?」

「……俺は忙しいんだ。お前みたいなカスの相手をしている暇は無い」

「その女を無事に逃がせるかのぉ……

儂は執拗いぞ?」


頭が痛くなってきた……

確かに、浦島太郎は執拗い。

それに、武闘会名簿に名前があるという事は、それなりの実力者なのかも知れない。

ならば、此処で始末しとくべきではある……


「おい女!喜べ!そいつを殺して、お前を妾にして飼ってやるぞ!!

その代わり、儂の子を孕むのじゃ!フヒャヒャヒャ!!」


何とも薄気味悪い……

リリアは青褪めている。


「リリア、少し待っててくれ。直ぐに終わらせる」

「お前では倒せんぞ……儂は不老なのじゃ!!肉体は若返り!傷も立ち所に治るのじゃからな!!」


そう言うと、浦島太郎の身体はみるみる若返った。

張りのある靭やかな巨大な筋肉、鋭い眼光。

浦島太郎は”不老”とか言っているが、これは”不死”と言うやつなのではなかろうか?


「この力は最早、神の力じゃ!!

この世の摂理を超越した存在に、お前如きが敵う訳がないのじゃ!!」

「…………」


大きく振り被った浦島太郎が放つ、渾身の打撃。

(……?……遅い)


浦島の打撃が到達するよりも早く着弾したのは、魔王の金的蹴りであった。


グシャッ……


娼館に響く、生々しい破裂音。

誰の目にも、浦島の睾丸は完全に潰されたかの様に見えた。


現場に居合わせた娼館のスタッフは語る。


「浦島太郎が、銀髪の青年に殴り掛かったんです。

当たったら死んでたんじゃないですかね?

そんな勢いだったんです。

でも、青年は避けるどころか、神業の様なスピードで浦島の股ぐらを蹴り上げたんです。

いやー……凄い音がしました……男だったら他人事とは思えないですよ……蹴られてないのに、見てるこっちも痛みを感じるぐらい同情しましたから(笑)


えっ?その後ですか?

銀髪の青年に殴り掛かってました。

よく考えて下さいよ。

睾丸潰されて、直ぐに動ける筈ないじゃないですか。

でも、浦島太郎は普通に動いて、銀髪の青年の顔を殴り付けたんです!

治ってたんですよ!浦島太郎の睾丸は!」


暫くは戦闘不能だと思われた浦島太郎だったが、睾丸を潰された事など意に介さず拳を打ち下ろして来たのだ。


俺は顬への重たい一撃を浴びてしまうも、大したダメージは無い。


「だんな様!!?」

「大丈夫だ……」

(あの一瞬で治ってやがる……)


立ち所に治ると言っていたのは、どうやら本当だった様だ。

この能力の根源は何なのだろうか?

魔法なのか……それとも、特殊な固有スキルだろうか……


規格外の回復魔法なら、魔力が枯渇するまで徹底的に削ればいいが……

もし、特殊な固有スキルなら厄介だ。

この手のスキルは、魔力をエネルギーとしない上に、無意識に発動するものが多い。

セレネの破邪の盾がいい例だ。


試しに、浦島太郎に高出力のマイクロ波を浴びせてみた。

指向性エネルギー兵器の数倍の出力だ。

一瞬にして、体内の水分は沸騰し命は無いだろう。

しかし、浦島太郎の身体には変化が起こらない。若干、水蒸気が出た程度だったのだ。


「銀髪よ。その程度か?今度は儂が仕掛ける番じゃな!!」


強烈なタックルで押し倒され、馬乗り(マウントポジション)からの強烈な打突(バウンド)


「腕を取られない様に精々逃げるがいい!儂は寝技が得意じゃぞ?」

「…………」

「だんな様!!」


打ち込まれる剛拳の嵐。

直撃こそしていないものの、危険な状態には変わりない。

その時、リリアの周囲に防御結界が展開した。


「俺は、グランドは苦手だ」


俺は、奴隷の首輪を引千切った。

直後、娼館は吹き飛び、瓦礫に埋まる浦島。


「なかなか機転が利くのぅ……」

「言っただろう?俺は急いでるんだ」


立ち上がろうとする浦島の鼻へ、全力の単なる中段蹴り……

単なる中段蹴りとはいえ、首の骨までへし折る威力だ。


「まだ分からんのか!そんなものが……!?」

「ん?どうした?早く治してみろ」


治らない……


止まることなく流れる鼻血、異様な角度に曲がった首……

(馬鹿な!何が起こっておるのじゃ!!)


ふと、浦島太郎は音が聞こえない事に気付いた。


「気付いたか?………”不老”敗れたり」

「!!?」


浦島太郎の脇腹を襲う、強烈な蹴り。

粉砕された肋骨は、勿論治らない……


「停止世界では、存外脆いものだな?

超越者とやら……」

「時間を停めていると言うのか!!?貴様は何者じゃ!!」

「俺は、全てを破壊し捩じ伏せる者……”魔王”だ」


時間を自在に操る銀髪の青年……

着ていた旅人の様な粗末な服は、漆黒の軽装鎧とマントに変化し、古文書に記されている伝説の存在へと変わっていった。


「お前の能力は、時間の逆行。

時が止まってしまえば、単なる性犯罪者に過ぎん」

「ほざくなっ!!儂は神じゃぁ!!」

「フフっ。お前の様な者が神とは……この世界の神は高が知れているなっ!!

真なる神の力を味わうがいいっ!!」


”雷霆”を纏う魔王の一撃は、浦島太郎の頭を胴体まで減り込ませ……更には細胞の1つも残さず焼き尽くした。


「だんな様……//」


これで、俺もリリアも安心だ。

展開している部隊と合流しようと移動していると、スキアが現れた。

スキアは、対少数特化の暗殺スキルを持つ悪魔だ。


「グルナ様!!」

「スキア!こんな所で何してるんだ!?」

「……敵勢力の偵察です……すいません」


スキアは、第2陣の指揮を執っているはずなのだが……居ても立っても居られなくなり、前線に出て来てしまった様だ。

(前進し過ぎだろ……)


まぁいいとして、少し話を聞いてみたのだが……

俺が城に監禁されていると思っている子供達は、魔女の城へ突入しようとしているらしい……


不味いと思い、子供達に念話したのだが、時既に遅し。


”パパが無事で良かった。

すぐに撤退したいけど……多分、みんな無理だと思う。

こっちは何とかするから、パパはママ達を助けて”


子供達は……

いや、魔王軍は異世界の軍勢と交戦を始めていたのだ。


城の裏手。


「武闘会がおジャンになったし、帰ろうかと思っていたが……

お前を嫁にするのも悪くねぇ……

俺は、桃太郎。家柄もいいぜ?」

「絶対にイヤ!!私には好きな人がいるんだから!!」


城の東側。


「あら♡可愛い坊やじゃない♡

カーラちゃんがもらえなくなったから、坊やを養子にしちゃおう♡」

「…………」

(うわー、女の人が相手か……やりにくいな)


城の西側。


「お前はいい眼をしているな!

俺様に恐怖を教えてみろ!!」

「そんなの知りませんよ!」

(この人は何を言ってるんですか!?)


そして、城門周辺で交戦中の部隊には、何処からともなく湧いてくる”鬼”や”騎兵”が押し寄せていた。

異世界の猛者に見付かり撤退出来ない子供達。

最早、殺るしかない状況に3人は覚悟を決める。

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