心中迷路〜茨を超えて
読んでみてください。
心に染みると信じて読み進めて欲しいです。
来る日も来る日も歩いた。
地面をふむ音だけが耳響く。
「はぁ、はぁ。」
どのくらい経っただろう。最初は1人じゃなかった。
自分のことで精一杯で、周りに見向きもせず前にす進むことばかりに目が行っていた。
「無理しすぎないでね?」
意味がわからなかった。
(無理って何?)
そんな言葉しかその時の俺には浮かばなかった。
でも、態度には出ていたんだと思う。
「そっか、ごめんね。」
彼女はそう言って離れていった。
今思い返せば心配してくれていたんだろう。けど、その時は気づくことも気付こうともしなかった。
「はぁ、はぁ。さすがにしんどいな、どっかに休むとこねーのかな。」
辺りを見回しても休めそうな場所は見つからない。
休みたい時に限って休めない。
まるで、お前はまだ休むな。休む時ではない。
誰かにそう言われているような気がする。
「ははっ、誰かって誰だよ。」
思わず、自分の思ったことに呆れつつ悪態をつく。
「結局、あの人が言ってたことが正解だったのか。」
彼女のこと以外で、ふと思い出したことがあった。
ーー数年前ーー
俺はその時から既に周りから孤立していた。
いや、自ら独りになった。
自分は周りのヤツらとは違う。勝手に線引きして自ら独りでいるようになっていた。丁度その頃にあの人に会ったんだ。
「おー、少年。君はあっちで遊ばないのか?」
上から声が聞こえてきて声の聞こえた方を向くと、細身で口髭を生やした紳士という言葉が似合う人が立っていた。
「な、なんですか?」
少し吃ってその人に聞き返した。
「ああ、少年が一人でいるからね。皆は何人かで遊んでいるのに一人だけこんな所にいるから気になったんだよ。」
その人は微笑みをこちらに向けて、続けて言葉をかけてきた。後にこの言葉が俺の進む人生を大きく変えたんだと思う。
「少年は、なぜ一人でいるんだい?」
「周りと違うからですよ。」
「違う?いったい何が違うんだい?」
「考え方、集団じゃなきゃ何も出来ない無力さ。」
俺がそう言うと、その人は真剣な顔になった。
「少年、よく聞くんだ。それは正解であり致命的な間違いでもある。」
その時俺は、訳が分からなかっただろう。
まぁ、正解なのに間違いだって言われたのだから仕方の無いことだと思う。
俺は首を傾げて言葉を待った。
「少年が見ているのは、自分の世界なんだよ。」
またも訳の分からないことを言われたので首を傾げて返す。
「はははっ。分からないか!」
俺の反応に気を良くしたのか声を上げて笑った。
その反応に、多少イラついたがその人の言葉を待った。
「なら少年。色んなとこを旅して見るといい!そうすれば、なんで自分が1人でいようとしていたかが分かる筈だ。だが、何も無しじゃわからないだろうからヒントをあげよう。」
その人は一呼吸置いてこういった。
『自分意外を見つめることだ。』
その言葉を思い出した時、俺の意識は薄れて行った。
あれ。俺さっきまで歩いててひと休み出来なくてあの人のこと思い出しててって、ここどこだよ。
「ーっ!?」
声が出ない。
それに気づいた時には俺はその空間から弾き出されていた。
「っは!?」
俺は目を開けた途端飛び起きた。
当たりを見回してみると、知らない部屋に一人居た。
「どこだ?ここ。」
混乱している頭で状況を理解しようとしていると部屋の扉が開いた。
「あら、起きたのかい?これよかったら食べなね〜。」
とても優しそうなお婆さんが、お盆で何かを持ってきた。
「シチュー......」
懐かしい。そう思った。それは、最後まで俺を気にかけてくれた彼女が初めて作ってくれた料理だった。
「身体は、だるくないかい?顔色悪くして倒れていたもんだから驚いたよ〜。」
お婆さんは、微笑みを絶やさず安心したように声を掛けてくれた。
「あ、ありがとうございます。」
まるで、さっき思い出していたあの人と似ている気がする。俺の今の反応だってそうだったから。
「あの、ここってどこですか?」
お婆さんが出してくれたシチューを食べて落ち着いたところで気になったことを聞いてみた。
「あぁ、ここはお兄さんが倒れてたところから少し歩いたところの集落なのよ〜。」
すこか歩いてつくなら何故見えなかったのだろうか。
「ここの集落はの、迷いのある人には見えないのよ。」
それを言われた時、心に何かが刺さったような感覚になった。
「それは、どういう.......。」
「お兄さんの、心に迷いがあったってことね〜。」
どう言葉を返したらいいか分からない俺を気にせず、お婆さんは続けた。
「でも、こうして私が見つけたということは少しは晴れたみたいね〜。」
お婆さんは優しい笑顔を俺に向けてくれた。
「あの、俺の話聞いてくれますか?」
俺は、お婆さんに全てを話した。
今までどうやって道を歩いてきたのか。
どんな出会いがあって、俺がどんな気持ちでどんな対応をしてきたのか。
勿論、あの人のことも彼女のことも包み隠さず話した。この人なら話していいと思えたから。
「ーーこれが俺の全部です。」
どれだけ話していただろう。とても長いこと話していたように感じる。
食後に出してくれたお茶はすっかり冷めきっていた。
「そう、あの人に会っていたのね。」
お婆さんの目には涙が浮かんでいた。
俺はそれを見て慌てたが、お婆さんが理由を話してくれた。
「お兄さんが話してくれた男の人は私の夫なの。」
「そうなんですか。」
「あの人ったら何年も前に旅に出るって言って一度も帰って来ないのよ〜。」
頬に手を当て、困っちゃうわねってお婆さんは言った。
「でも、良かったわ。」
「何がですか?」
「だって、お兄さんとこうして巡り会えましたから。」
今度は俺が涙を浮かべることになってしまった。
この時、俺はやっと気づけた気がする。
あの人が言っていた、自分の世界を見てるって言葉の意味に。ずっと分からなくて、これまで一人でいだ。
でも、お婆さんと話していて思うこと感じることがたくさん見つかった。
あの時俺に言葉をかけてくれたあの人はきっとこういいたかったんだと思う。
『自分の世界に閉じこもってないで広い世界を旅しながら沢山の人に出会って、沢山話をしてみよう。』
きっと、それを伝えたかったんだと思った。
なんか、スッキリした気分だ。
俺は正解と勘違いして間違っていたんだ。
とにかく、あの場所に戻ることができたら彼女真っ先に話をしに行こう。
これまでの事、これからのこと全部。
翌朝、目が覚めた。
気づかないうちに寝てしまったようだ。
部屋にはお婆さんはおらず、書置きと温かいシチューの入った鍋があるだけだった。
俺はそのシチューを感謝の念を沢山込めながら味わって食べた。その後身支度をして部屋を出た。
お婆さんの姿を探したが見当たらなかったので、集落の出口で一礼しその場を後にした。
その後にした青年をお婆さんはどこかで見ていたことを青年は知らないのであった。
ーー数年後ーー
あれから時間はすぎ、すっかり幸せだ。
集落から去り、彼女のいる元へ行き全てを話した。
俺の話を聞いて、彼女泣きながら俺に抱きついてきた。
「今まで、よく頑張ったんだね。」
その言葉で俺の涙腺も崩壊して、抱き合ったまま暫く泣いていた。
「ねぇ、これからは二人で頑張ろう?」
彼女がそう言ってくれてとても嬉しかった。
「あぁ、これからまたよろしくお願いします。」
二人は笑いあった。
青年の心にはあの時お婆さんが残した書置きの言葉が刻まれている。
『周りが見えなくなったら1周回ってみなさい。見えなかったものが見えてくるから、焦らずにゆっくり歩いてね。』
青年は言葉の通り歩くことができるのだろうか。
この結末は、本人たちしか知らない。
少なくとも私はいつまでも幸せでいて欲しいと願うばかりだ。
「ありがとう。」
青年が呟いた。
自分の世界を壊してくれた恩人に大して、感謝を込めて呟いた。
その言葉をどこかで聞いていることを信じて。
いかがでしょうか。
何かを、掴めましたか。
幸せの前にはとても辛い何かがあるということを書きたかったのです。
これからもよろしくお願いしますm(*_ _)m