表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6代目総長の極めし道  作者: ジロ シマダ
6/32

菊池組の運命

 牛丼屋から出てくる男は黒木に声をかけ問答無用で車に押し込められた。突然の乱暴に男は暴れるが、目の前に座る男をみて身を固くした。


 「か・・・・・・ かん、神林尊」


 「呼び捨てにしてんじゃねぇよ! くそ野郎」


つい名前を言ってしまった男は黒木に殴られた。痛む頬を押さえ必死に謝る男は座席の下に座り込んだ。


 「汚れるから車の中で殴らないでよ」

 「すいません、つい」


黒木に尊は苦言を一つ言うと携帯電話を操作するだけで男のことを放置する。

 男は車がどこに向かうのか自分はどうなるのか恐怖におぼれながらも、なんとか打開しようと後ろに手を回す・・・・・・が


 「変に動くと黒木が撃つからやめろよ。車、汚したくないんだ」


尊の言葉に男は動きを封じられる。男はばれていたかと尊を見れば変わらず視線は携帯電話に注がれていた。黒木のごつい手につかまれ銃を奪われた男はうずくまることしかできなかった。

 尊は携帯電話をしまうとため息をつく。うずくまる男に汚物よりも汚いものだといわんばかりの軽蔑した目を向ける。


 「子が子なら親も親だな」


本居からの報告資料に目を通し、菊池組を消そうと尊は即決した。




 「なんだ! てめぇ」 


 菊池組の事務所に入るとチンピラ風の男2人は尊を挟み込みに高圧的に睨み付けたがなんの反応も示さないことにイラつき、肩をつかもうとした。しかしその前に男の手を黒木がひねりあげ、チンピラはたまらず叫び声を上げる。

 尊は

 「(邪魔くさいし、うるさい)」

と眉間に皺を寄せる。


 事務所に響いた叫び声に組員たちが駆け寄ってくるが、その群れに黒木はつかんでいた男を突き飛ばし組員たちを牽制した。投げられた仲間をなんとか支えた組員たちは黒木を見上げる。



 「俺は神林組の黒木だ」


 黒木は言葉と共に手帳を取り出した。神林の代紋を背負う黒い手帳にかけ寄ってきた組員は低姿勢になり、黒木という名にさらに身体を小さくする。神林組の黒木といえばこの界隈で知らないものはいない名前だ。

 「銃撃の・・・・・・黒木」

 菊地組の組員はどうしていいかわからず立ち尽くした。神林ということは親分の親である聖組長の親である。その神林組総長の側近はどう考えても菊池組員がどうこうしてよい相手ではなかった。


 「総長、こいつらどうしますか」

 「ほっておけ」


黒木の言葉に目を丸くし尊を見る組員たちの間に尊を黒木は体を滑り込ませ、不躾な目から尊を守る。当の尊は騒ぎなどそもそも存在しないという風に、周りのことなど気にせず組長室のドアノブを握った。


 「今は! あっ! えっと・・・・・・ く、組長はおりません」


 無謀にも声をかけたことを組員は後悔した。サングラスで男には見えないはずなのに振り返った尊に睨まれたと感じ、なにか鋭いもので刺されたような感覚に、思わず胸に手を当てる。


 「待たせてもらう」


 尊が組長室に消えると、黒木は連れてきた男を引きずり尊の後に続いて呆然の組員の視界から消えた。閉まる扉の向こうで、すがるように見てくる男のために動くものは1人も存在していない。見慣れた扉の奥で何が起こるのか菊池組組員は考えたくなかった。



 組員からの連絡を受け、息を切らせながら菊池が事務所に駆け込んできた。菊池は息を整えていつもなら普通に回すドアノブを組員に見守られながら汗で濡れる手でまわす。回して開けた扉の向こうの世界は菊池を悪い方向で歓迎した。


 ところどころ血に濡れる床、壁そして転がる組員が菊池を出迎え、菊池の後ろから覗き込んだ組員がひきつった声を上げてしまう。静かに立つ、黒木の横の組長室の椅子が回転し入口のほうを向いた。どちらの目も冷静に菊池を捉えた。


 「扉を閉めてくれるかな」

 「っ! はい!」


言われた通りに菊池は後ろ手に扉を閉めたが、それ以上は打ち付けられたかのように動けなかった。優雅に椅子に座る尊は笑顔で床に転がる男を人差し指で示す。


 「その男が柏木未来を撃ったことを知っているかな」

 「ひえ!」

 「ひえってなに? しっているかな?」


 あまりの答えに尊がばかにしているのかと睨みつけるのに、菊池は緊張と恐怖で回らない舌を一生懸命、回して否定を返した。返事を返すだけでもいっぱいいっぱいの情けない菊池は先日同じ人物なのかと冷や汗を流し続ける。

 若いのにしっかりした人物くらいにしか思っていなかった。そして、噂の通り、優しい慈悲深い天使のような尊にすぐに聖が7代目に納まるとまで考えていた。


 しかしその尊に菊池は恐怖を感じている。例え、血濡れた組員がいなくても恐怖を感じていたはずだと思える怖さが目の前に存在していた。


 「柏木未来をストーカーして、恋人がいるからと殺そうとしたようだ。あぁそうだ。その男、死んではいないから安心してくれ」


 尊の何ということはないだろうと口角をあげる表情に菊地の心臓が不自然に脈うった。菊地は倒れ込むように土下座をして尊に必死に詫び床に水たまりを作るのではないかと思えるほどの勢いで汗を流す。

 菊池は誰が目の前の男を慈愛あふれる天使だと言い出したのかと知らない人物に怒る。しかし、今は目の前の状況から逃げ出さなくてはならないと、菊池は体裁を気にする前に全力で詫びを入れるが尊は見向きもしない。  


 なぜか引き出しを開ける音が菊池の耳に届き、本をめくる音と菊地の荒い息遣いが部屋に流れた。


 菊池は何を見ているのだろうかと体を震わせ、自分の引き出しに何が入っているかを懸命に思い出すが馬鹿に輪をかけて馬鹿になっている菊池の頭は思い出せない。


 「なかなか良い趣味をお持ちのようだ」

 「えっ」


本を見せるように掲げ、尊が声をかければ菊池はすぐに顔を上げた。悲惨な汗と顔色にそのうち死にそうだなと尊は哀れに思った。

 「とて・・・・・・も、とてもいいでしょう」


 にこやかに本を見ながら言う尊に少し安心したのか菊池が震える声で同意した瞬間、菊池の頭に本がぶち当たる。

 あまりのことによけることができなかった菊池から鈍い音とうめき声がいい具合に聞こえた。尊は容赦することなく、頭を抑え込む菊池に次の本を投げつけた。


「ゲスが」


 一言付け加えて吐き捨てるように尊は3冊目を投げつける尊の声には軽蔑の色が濃く出ていた。


 尊が手を差し出せば、黒木はすかさずアルコールティッシュを取り出し一枚渡した。黒木もそんな汚いものを尊がふれたことは容認できていなかった。

 何枚か使用し手を綺麗に拭いていれば、どたばたというあわただしい足音が聞こえた。どんどんと近づく走る音が、最後にどんという音を盛大に立て、入口が跳ね返る勢いで開いた。

 尊が手をふきつづけ入口を見ればネクタイを乱した聖が肩で息して立っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ