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6代目総長の極めし道  作者: ジロ シマダ
30/32

(過去編)復讐と忠誠

 (たける)は両親の死を疑問に思い本居に調べるように指示を出していた。

 そして(たける)の思った通り、進志(しんじ)美咲(みさき)の死は山道を曲がりきれず落下した事故死ではなく、『他殺』だった。


 調べた画像には山の途中にある駐車場に車を止めて山並みを見る進志(しんじ)たちの姿が映っていた。そして同時に小さな男が車の下に潜り込む姿も映っていた。20分もしない間に油に汚れた顔をさらし足早に男は消える。

 そして、進志(しんじ)たちはすぐ近くのカーブで車ごと落下して死んだ。実にあっけない。大組織を統べる男の死とは思えない・・・・・・



 それを突き止めた本居の追跡調査により、小さな男の潜伏先を割り出される。小さな男の運命の分かれ道はあの決定的な犯行映像だ。

 山の中の小さな駐車場はたまたま不良がたむろするということでカメラが設置されていた。次に、それを見つけ出し追跡できる人物がいたこと。そして・・・・・・

『天使』を覚醒させたことだ。



 犯行がばれていると知らない小さな男はニュースを確認して事故死で処理されたことを知り、天高(てんたか)く拳を突き上げた。


 「俺はやったんだ! これでうはうはだぜぇ!」


 これから、送られてくるだろうお金に思いをはせ、その場でくるくる回る。男は回りながら玄関に向かい、両手を広げ立ち止まると部屋を振り返り満足げに頷く。

 小さな男は3億という大金を提示され5代目総長 神林進志(しんじ)を殺した。破格(はかく)のお金に信用できるか悩んだ。悩む男に驚愕の前金、2億支払われた。成功したら更に1億という破格(はかく)中の破格(はかく)に、にべもなく仕事を受けた。



 「これでこのオンボロとできるぜ」


 ぼろぼろのつぶれた畳、お風呂もない部屋に小さな男はもう一度天高く拳を突き上げる。そして大好きなドライブをしようと楽し気に部屋から出た。

 本当に楽しい・・・・・・楽しいドライブになるとは知らずに男の心は浮足立っていた。


 その外からスキップのような足取りで、部屋から出てくる男を(たける)は静かに見ていた。ドライブを始めた男を、(たける)はバイクでつけ始めた。

 10分間、ずっと後ろをついてくるバイクに小さな男はイラつきスピードを上げる。その行動に(たける)はにやりと笑い、車を華麗に抜き去った。すれ違いざまに中指を立ててバイクをケツを揺らす。


 浮かれた心の男は立てられた中指と煽られたバイクに、アクセルを踏み込んだ。スピードを上げた車に(たける)もスピードを上げる。抜けそうで抜けないスピードで。

 どこまでもついてくる車に(たける)は口角を上げた。


 「馬鹿な奴・・・・・・もうすぐ落ちるのに」



(たける)はヘルメットの中でつぶやくと、バイクのスピードを緩める。スピードが落ちたバイクに男は鼻で笑った。


 「っふ・・・・・・山道で怖くなったな」


 男を乗せた車は赤色、黄色、茶色そして緑が入り混じる山道を落ち葉を巻き上げ、(たける)を抜き去る。走り抜けた車の窓から飛び出す中指に(たける)は思わず笑った。(たける)はこの後に起こることを知っているから・・・・・・


 (たける)が笑った中指立つ手が踊るように慌てた。踊った手は役に立たず、車はガードレールを突き抜けると黒いアスファルトに吸い込まれるように消えた。ガードレールを突き抜ける姿はまるでゴールテープをきった短距離選手のようだ。



 抜かされたところで停止し、静観(せいかん)している(たける)の耳に、男の叫び声が届いた。それに続く崖下から響く衝撃音と振動に対して(たける)は何も思わなかった。(たける)

 「(一応、連絡するか)」

と携帯電話を取り電話をかけた。普通ならば警察か救急を呼ぶが電話先はどちらでもない。


 「特定されないように通報しておいてくれ」

 「らじゃぁ! それと今そっちに隠岐(おき)さんと黒木さんが向かってまぁす」

 「みたいだな」


(たける)が聞きなれた車の音に振り返り姿が見えるのを待った。

 少し下のカーブから神林組の車が顔をのぞかせる。運転席にはものすごい形相の黒木とその横で前かがみで前を見る隠岐(おき)の姿があった。2人は道の脇に立つヘルメットをかぶる(たける)に警戒したようでスピードがすこし落ちた。


 (たける)はついてくるだろうと、車を待たずバイクを壊れたガードレールまで走らせる。下を覗き込む(たける)と壊れたガードレールと下から登る煙に、黒木と隠岐(おき)

 「(まさか!?)」

と最悪の事態を想像した。


 2人は銃を握りこみ、落下したのは(たける)なのではないかと恐怖と不安を抱え近づく。銃を握り近寄る2人の形相に(たける)は安心させるように声をかけた。



 「どっちが本居を問い詰めたんですか」

 「若ぁ!」


 黒木はうちモケットに差し入れていた右手を抜くと(たける)を抱きしめた。あまりの強さにギブギブと黒木の腕を(たける)は叩く。その様子に隠岐(おき)はほっとしながらハンチング帽を深くかぶり直すと、(たける)の疑問に答えた。


 「俺です。前にネットに強いやつ頼れるやつを拾ったと聞いたのを思い出して」

 「さすが! 隠岐(おき)さん」


 「で? あれは何ですか」

隠岐(おき)は下に落下し煙を上げている車を指す。黒木も隠岐(おき)の指さす方を見ながら頷く。


 「車」

 「・・・・・・」

隠岐(おき)と黒木の視線に根負けし(たける)は両手を上げながら正直に話した。


 「あれは父と母を殺した男が乗っている車です」

 「殺したんですか」

 「はい」


よどみなく何かおかしいか、というような(たける)に2人は目が点になってしまう。



 「俺は大切なものを傷つけられて黙っていられるほどできた人間じゃないんですよ」


 ずっとかぶっていたヘルメットを外し、そういう(たける)の目は冷たく研ぎ澄まされていた。隠岐(おき)も黒木もぞくり、としたものを感じた。



 「大切なものを傷つけるものは排除(はいじょ)する。傷つけた者には報復(ほうふく)する。やるからにはやり返される覚悟はあるはずだ」



 下でくすぶる車を見下ろしながらそういう(たける)の目に迷いも後悔も一切ない。隠岐(おき)は『その目』に、『その心情』に引かれ、ほれ込んだ。隠岐(おき)の目に映る(たける)は気高く、慈愛にあふれながらも残酷に微笑む天使に見えた。


 隠岐(おき)はハンチング帽を外し、その場に膝をついた。黒木も(たける)も突然のことに、驚き顔を見合わせる。左手を胸に当てゆっくり顔を上げた隠岐(おき)の真剣な瞳は(たける)をとらえた。その瞳に(たける)

 「(真剣に向き合わなくてはいけない)」

と感じた。(たける)隠岐(おき)に体をまっすぐ向き合わせると、隠岐(おき)は口を開く。



 「隠岐(おき) 倫太郎(りんたろう)は神林(たける)に忠誠を誓います。何があろうとも私はあなたのために存在し続けます」


(りん)とし、どこかうっとりとした声で隠岐(おき)はそういうと(たける)の手を右手ですくうように持ち上げ、額に当てた。

 (たける)隠岐(おき)の言葉に驚きながら、歓喜(かんき)している自分がいることに気が付いた。隠岐(おき)が『自分のものである』と当然のように思っている自分に驚く。(たける)は一度目を閉じると、うれしいことを言う大切な隠岐(おき)に言葉を贈った。


 「隠岐(おき)、死ぬことは許さない。俺がいいというまで生きていろ」


静かで包み込むような声でありながら逆らえない声色が隠岐(おき)を歓喜させる。

 「(やはり支配者たる人間だ)」

隠岐(おき)は強く確信した。そして自分が仕えるべきお方と隠岐(おき)は歓喜する。


 「へい!」



 黒木は隠岐(おき)の返事にはっと意識を戻し隠岐(おき)を睨みつけ、負けてなるものかとドンと拳で自分の胸を殴りつけるように叩いた。


 「若! 俺も若のために存在し続けます! 若がいいといっても存在し続けます」


黒木の宣言に(たける)は微笑む。


 「黒木、ありがとう」


ふわりとがげ下から巻き上がる風はオイルと焼ける匂い、そしてなぜか・・・・・・甘い匂いを(たける)に届けた。

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