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6代目総長の極めし道  作者: ジロ シマダ
27/32

品川ふ頭

 堂園(どうぞの)長谷川(はせがわ)はたまたま品川ふ頭の近くで捜査をしているところに、銃声が聞こえたと通報があったことを知らされ現場に急行していた。



 周囲を警戒し、ふ頭を調査しているところに黒塗りの車が何台も入ってきた。長谷川(はせがわ)はすぐに堂園(どうぞの)を自分の後ろにかばいコンテナの影に隠れる。

 止まった車からはスーツを着こなした厳つい男たちが、どんどんと降りてくる。どう見ても一般人ではない。その光景に堂園(どうぞの)長谷川(はせがわ)も緊張が最高潮で、自分の心臓の音が耳でこだまするのがわかった。


 すぐに本部に伝えなければと袖につけているマイクを口元に運んだ手が、あるものの出現で中途半端に止まった。男たちに守られるように車から降りる男は堂園(どうぞの)長谷川(はせがわ)も知る男。


 (たける)はすぐ隠れている2人に気が付き、栄をさりげなく手招きした。栄は何をされるのかと手をこすりながら(たける)に近づく。


 「あそこに刑事が2人います。怪我をした組員はここにいませんね」

 「えっ! あっはい! 別の場所です」


 栄やほかの組員は(たける)に言われ初めて堂園(どうぞの)たちの姿に気がつく。頷く栄に(たける)

 「よし」

というと堂園(どうぞの)たちの方に歩みを進めた。散歩でもするような歩みに堂園(どうぞの)たちは動けない。


 まさかばれているとは思っていなかった長谷川(はせがわ)は額から汗を流し後ろに身を引くが堂園(どうぞの)に背中があたり止まるしかない。


 「なにをしてらっしゃるのですか」

 「事件の調査です」

 「そうですか」

 「そちらはなにを」


 (たける)は銃声の通報を受けて来ているのだろうとわかってはいるが知らない体で声をかけた。長谷川(はせがわ)は神林組が関わっているのかと構え、勇気を出して(たける)に問いかける。



 「荷物の確認ついでにみてまわろうかと。大型クレーンとかあるので結構好きなんですよ」


 (たける)はいけしゃあしゃあと嘘をつく。怪訝(けげん)そうな顔をする長谷川(はせがわ)の後ろで体をちいさく隠すように立つ堂園(どうぞの)(たける)は笑いかけた。ビックとなるその姿に犬のようだと(たける)はにやけそうだ。


 (たける)は犬に怯えられるようで大体の犬は耳を伏せて身を小さくして見せてくる。堂園(どうぞの)の姿はまさにその犬がごとき姿だった。 


 「でも2人の邪魔になるのもあれなのでしばらく車にいますね」


(たける)はそういうと車に戻り、不服そうに堂園(どうぞの)長谷川(はせがわ)を睨み付けて幹部が後に続いた。






 「先輩」

 「神林組が関わっているのかと思ったが‥‥‥どうなんだろう」

本当に(たける)を信用していいのか長谷川(はせがわ)は悩み。関わりたくないと思う堂園(どうぞの)長谷川(はせがわ)を盾にしている。しかし、いつまでもそうしているわけにもいかない。

 

 「いくぞ、堂園(どうぞの)

 「はっ!?はい!」

 「警戒を怠るな」

 「はい!」



 「どうしますか」

 「どうするもなにも、警察がいたらどうにもならないだろ?黒木」

 「しかし、総長。もしあいつらが福田に出くわせばやられますよ」

隠岐(おき)がそれでもいいのかと(たける)を伺えば(たける)

 「別に」

欠伸(あくび)をした。


 「私たちが今、動けば警察の捜査を受けることになりますよ。まぁ銃声が聞こえたら助けにいきましょう」

 (たける)はそういいながら外を眺める。なにを考えておられるのだろうかと黒木、隠岐(おき)、還田、湖出が見つめていれば(たける)の目がすっと細くなった。


 「あぁ、腹立たしい」

(たける)の呟くような声に

 「(さっさと弾を撃ってくれ)」

と還田と黒木は心のなかで呟く。そして隠岐(おき)

 「((たける)を害するもの、不快にさせるものは即排除)」

隠岐(おき)も外を眺め、銃のセーフティを撫でている。残りの3人は(たける)隠岐(おき)の様子に顔を見合わせた。

 しかし、どうすることもできないと諦めて誰も口を開かなかった。




 初めての緊張感に堂園(どうぞの)の心臓は、はち切れんばかりに脈打つ。長谷川(はせがわ)についていく足は震えて崩れそうだ。それを懸命に動かし続け、堂園(どうぞの)はずっと祈っていた。

 「(何も起こるな)」

と・・・・・・だが、だいたいそのような祈りが届くことはない。


 長谷川(はせがわ)は背後でなにか動いた気配を感じ、咄嗟(とっさ)に立ち位置を変え堂園(どうぞの)を庇った。その判断が間違っていなかったことを身をもって感じた。


 堂園(どうぞの)が急な動きにバランスを崩しながら、長谷川(はせがわ)の顔をみた。動いた視界に、飛び散る赤が飛び散った。その赤と、見開く長谷川(はせがわ)の目が堂園(どうぞの)の脳裏に焼き付いた。

 焼き付いた光景に体が硬直する。なんとか、糸の切れた人形のように倒れてきた長谷川(はせがわ)咄嗟(とっさ)に支えることはできた。


 「先輩!」

 目を閉じる長谷川(はせがわ)にどうすればいいのかとわからず堂園(どうぞの)はただ、ただ叫び、呼ぶ。ジャケットをじわじわと侵食する赤。それよりも奥から赤く変化しきりそうなシャツが顔をのぞかせる。

 その赤に堂園(どうぞの)の心はかき乱される。



 狂ったように長谷川(はせがわ)を呼び続ける堂園(どうぞの)に影が落ちた。堂園(どうぞの)はゆっくりと顔をあげた。やせこけ、目が飛び出たような男が楽しげに顔を歪めている自分たちを見下ろしている。

 「死んでないか」


 うっとりとした声で福田はつぶやいた。堂園(どうぞの)はその顔に声に殺意を抱いた。一度も実践では抜いたことがない銃に手を伸ばした。

 怯え、混乱し涙が滲む目にはっきりと憎しみが宿る。その目に福田は一層うっとりとした顔をした。恨みをもっった人間が死ぬ間際に見せる表現も福田は好物だった。


 「その顔もすきだな」

 「くそが!」


 堂園(どうぞの)がトリガーに指をかける前に福田の顔が勢いよく揺れた。福田は何が起きたかわからず、痛む顔面を襲える。堂園(どうぞの)は福田の顔面に直撃したものの出所のほうへ顔を向ける。

 しかし、堂園(どうぞの)が振り返りきる前に黒い物体が素早い動きで過ぎ去った。


 「ぐうぇ!」

 黒いものの動きに混乱していた脳がついていけず、堂園(どうぞの)は最後まで顔を動かした。そこには拍手をする隠岐(おき)、慌てた様子で堂園(どうぞの)へ向かってくる黒木の姿があった。

 

 「(なにが起こっている・・・・・・)」

と苦しそうな福田の声へ顔を戻した。信じられない光景が広がり、堂園(どうぞの)は間抜けに見上げた。

 

 白いものを口から出す福田の上に器用に乗っている(たける)が、堂園(どうぞの)を見下ろしている。


 「若!」

 「さすが! 総長!」


 近寄ってくる神林組にどうすればいいのか訳が分からない堂園。その呆然している目に(たける)は呆れを十分に入れ込んだ、ため息をつく。堂園(どうぞの)は肩を震わせた。


 「あなたは刑事ですよね。落ち着いてすべきことを考えなさい」

静かな声に堂園(どうぞの)は意識がすっと、まとまったような感覚になった。堂園(どうぞの)

 「(先輩が先だ!)」

長谷川(はせがわ)をみた。傷口を押さえ、マイクで本部に救急車と応援を要請する。



 「はぁ」

 (たける)は苛立ちの息を吐き出し、吐瀉物(としゃぶつ)を口から流す男の腹をグリグリと踏みつける。


 「それ以上はやめてください!」

刑事意識を戻した堂園(どうぞの)の言葉に黒木と隠岐(おき)以外の神林組ははらはらと堂園(どうぞの)(たける)をみた。今の(たける)に逆らうなど愚かな行為でしかないというのが神林組の総意だ。

 しかし、はらはらに反して(たける)は楽しげな笑い声をあげた。


 「ははは! やはり刑事ですね! そうでなくては」


 そういうと膝を曲げて少し力を込めながら福田の腹から降りると(たける)はポケットに手をいれた。そのまま、堂園(どうぞの)を覗きこんだ。

 サングラスの向こうにうっすら見える目を負けじと堂園(どうぞの)は見つめ返す。これも刑事魂というやつかと(たける)は小さく笑った。


 

 軽く手を振り、神林組を引き連れて去る(たける)堂園(どうぞの)刑事としてではなく堂園(どうぞの)として(たける)に頭を下げた。(たける)がいなければ自分もそして長谷川(はせがわ)も無事ではなかった。それに長谷川(はせがわ)をろくに処置できずに死なせていたことだろうと堂園(どうぞの)は不甲斐ないと自分を叱った。


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