尊はやはり巻き込まれる
六本木本部大会議室、いつものように幹部が集まり会議を行っていた。スムーズに進む会議を邪魔するように、栄の携帯電話が鳴り響く。静かな会議室ではよく響くもので音の大きさに栄の手は慌てふためき、なかなか携帯電を取り出せない。
「あんこ! マナーか電源切っておくのが常識だろ」
「うるせぇ! へちま!」
栄は聖に悪態つきながら尊にペコペコと頭を下げ、耳に携帯電話を押し当てた。聖は小さくぶつくさ、ぶつくさ言いながら尊に
「(こいつだめでしょ)」
という顔を向ける。
「はぁ!? なんだと! それで!」
栄が電話にはあるまじき大声を発した。隣に座る湖出と還田が咄嗟に耳をふさぎ栄を睨みつけた。電話を切られるのを見て、尊が声をかければ栄は
「大したことはないです」
と前置きしながら内容を報告した。
「品川ふ頭で組のもんが銃で撃たれました。腕掠っただけです」
「誰にやられたんですか」
「知らないやつだと」
尊はじっと栄を見つめるが栄は下を向き目を合わせようとしない。尊やほかの幹部は何か隠しているなと栄の頭を見続けた。数分、時が流れ栄は観念した。
「日本から逃れる奴に‥‥‥すいません!」
栄は中央に出て尊に頭を下げ、幹部たちは尊が激怒する案件だと心を構える。しかし、尊は首をかしげるだけだった。たまらず栄も首を傾げた。
「総長、高飛びさせていたということですよ」
隠岐がまさかわかっていないのかと不思議に思い教えるが、尊は逆方向に首を傾げるだけ。
「だから?」
「えっ?」
この反応には大会議室にいるものすべてが目が点だ。てっきり尊は
「犯罪者を海外に逃亡させる片棒を担ぐな」
と怒り出すと思っていた。
「えっと、犯罪者を海外に逃がしていたんですよ」
「組のものがカタギに迷惑かけたりするのは許さないけど、その辺の犯罪者はどうでもいいですよ。ばれないように逃がしていればいいです」
「そうですか」
頬杖を突いて、そういう尊を見れば心の底からどうでもいいとがわかる。
尊はすっと顔をまっすぐに戻すと目の前で間抜けな顔をしている栄を見た。栄も真剣な目に背筋を伸ばす。
「飛ばそうとした犯罪者の名前は」
「福田隆太というやつです」
その名前に尊と黒木が反応し隠岐はその小さな反応を見逃さない。
「知っているやつですか」
「知っていますよ。これも何かの縁かな? ねぇ、黒木」
尊は面白いこともあるものだと笑い後ろに立つ黒木に同意を求めれば、黒木は眉を上げ困った表情を
する。
「縁ではなく総長のトラブル吸引体質のおかげではないかと」
黒木の返事に尊は不服そうに口を尖らせ睨みつけるが黒木は慣れたように受け流す。尊は自分がトラブルを引き寄せやすいことは何となく察してはいるが還田にまで頷かれるとは思っていなかった。そして、隠岐が面白そうに笑っているのも尊は面白くない・・・・・・が、何も言い返せない。
このようなことで拗ねている場合ではないと尊は意識を切り替える。切り替えれば、やはり怒りが沸き上がる。
「まぁ、栄組の組員とはいえ傷つけられて黙ってはいられないよね」
総長席から立ち上がり足取り軽く、中央を歩き扉に向かう尊に黒木、隠岐、還田、湖出はすっと後に続く。開いた扉の向こうから栄を尊が呼んだ。
「栄、落とし前つけに行くぞ」
「っ!? はい!」
栄は大きな体をゆらし、慌てて追いかけた。




