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6代目総長の極めし道  作者: ジロ シマダ
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情報は伝説となった警察官に

 警視庁捜査第1課、堂園(どうぞの)が先輩刑事たちに『伝説の男』と笑い半分に称えられていた。こともあろうに神林(かんばやし)組総長 神林(かんばやし)(たける)を知らなかったとはいえ引き留め、足を洗うように説いたというのだから。これをたたえずにどうするというもの。


 「うぅ、だって雰囲気が全然違ったんですよ。ねぇ‥‥‥先輩」

 「俺を巻き込むな。確かに、どこにでもいる大学生といった感じだな」


 長谷川(はせがわ)は縋る堂園(どうぞの)を引きはがしながら(たける)のことを思い出す。映像から感じた『鋭い空気を放つ男』と午前中の『さわやかな空気を放つ男』はいまだに完全一致していない。


 「まぁ怒られることもなく済んでよかったな」

 「うぇ?」

 「神林(かんばやし)組に勝手に警察が行ったようなもんだ‥‥‥いらない波風(なみかぜ)を立てたとして良くてお叱り、左遷(さかん)だな」


 長谷川(はせがわ)の言葉に堂園(どうぞの)はもう関わりたくないと情けない声を上げる。そこへ苦い顔をした課長が近づいてきて信じられないことを堂園(どうぞの)長谷川(はせがわ)に声をかけた。


 「副総監がお呼びだ。長谷川(はせがわ)もだ」

 「お、れも‥‥‥ですか」


長谷川(はせがわ)まで死刑宣告を受けたような気分だ。周りを見れば手を合わせる同僚が自分たちを囲んでいるのをみて、あとで覚えておけよと泣きそうな堂園(どうぞの)長谷川(はせがわ)は副総監室に引っ張った。



 副総監室に近づけば近づくほど重力が増し足が思うように動かないような気がしてくる。副総監室の扉をゆっくり3回ノックすれば、この前聞いた山戸(やまど)

 「入れ」

という声が耳に届いた。深呼吸を3回すると覚悟を決めて長谷川(はせがわ)は脅えた表情の堂園(どうぞの)を連れて入室する。


 「捜査第1課3係長谷川(はせがわ)、参りました」

 「同じく堂園(どうぞの)参りました」


扉を閉めすぐに頭を下げる。これであってるっけ?などと正しい礼儀に焦る心で頭を悩ませる。


 「呼び出して悪かったね。この人が君たちに渡したいものがあるそうだ」


山戸(やまど)の言葉に顔を上げ山戸(やまど)の前に座る後頭部を見た。その後頭部はすっと立ち上がり、ピシッと決まったスーツを着こなしていた。その雰囲気と来ているものにどこかのキャリア組かと2人は思う。

 しかし、違った・・・・・・ 振り返った男は2人ににこやかにこう、あいさつした。


 「先ほどぶりです」



 ワックスで少しバック気味に整えられた髪型に伊達眼鏡をかける(たける)の姿があった。

 「さっき‥‥‥あっ」


堂園(どうぞの)長谷川(はせがわ)も驚きの声を上げ、目の前に立つ人物が尚更わからなくなった。知的で優しそうな印象を与えるいうなればキャリアのような雰囲気を醸し出す(たける)に目を白黒させる。


 「やはりぱっとは気が付きませんね」


(たける)は気が付かれないことに心の中でガッツポーズを決めた。朝の格好では失礼に当たる、かといって総長としての格好で警視庁を訪れることは憚られるような気がする(たける)は今のような格好で訪れる。これがなかなか警視庁だけでなく、どこにでも溶け込めるから(たける)としては楽しいコスプレイベントだ。



 「いやぁ、いつも思いますが総長はころころ雰囲気が変わってなかなか気が付けませんよ」

 「誉め言葉として受け取りますね‥‥‥っと時間が」


山戸(やまど)の後ろにかかる時計を見て(たける)はポケットから小さなケースを取り出した。差し出されたケースを堂園(どうぞの)にどうすればいいのかわからなかったが長谷川(はせがわ)の目を見て恐る恐る受け取った。


 「では私はこれで。副総監、お邪魔しました」

 「わざわざありがとうございました」


 出ていく(たける)にヤクザに頭を下げるのはと納得いかないものの頭を下げる副総監にならい頭を下げた。扉が閉まり3秒ほど間が空いたが堂園(どうぞの)は手のひらの小さなケースを開ける。


「SDカード?」

「強盗殺人が発生した時の監視カメラの映像だ。参考になれば幸いだそうだ」

「なぜ?ときいてもよろしいでしょうか」


長谷川(はせがわ)堂園(どうぞの)のSDを見ながら訝しむ声を漏らす。山戸(やまど)は湯飲みのお茶を飲みほし立ち上がった。堂園(どうぞの)長谷川(はせがわ)に面白いというような笑みを浮かべる。


「昔から協力関係にあるが6代目になってからは前よりも協力している。なんといってもカタギに迷惑をかけることをよしとしない堅物だ」

「はぁ」

堂園(どうぞの)を気に入ったようで目をかけてほしいと頼まれた。それをもって捜査に戻りなさい」




 山戸(やまど)の協力関係にあるという言葉に少しショックを受けながら副総監室から無事に退室して、堂園(どうぞの)は横を歩く長谷川(はせがわ)に不安そうに縋る目を向けた。

 「これ‥‥‥ウィルスとか入ってませんよね」

 「さぁな、鑑識に回そう」


長谷川(はせがわ)は厄介なものに気に入られたものだとSDに視線を戻す堂園(どうぞの)を見る。関東最大組織6代目総長、神林(かんばやし)(たける)に気に入られたなんて自慢にもならないと堂園(どうぞの)のことを考える。しかし、考えたところでどうにもならないわけで苛立った長谷川(はせがわ)は頭をかきむしった。


「大丈夫ですか?先輩」

「大丈夫じゃないのはお前だ」

長谷川(はせがわ)堂園(どうぞの)の頭もかきむしって押しつぶすと先を歩き出した。








「課長、戻りました」

「副総監の要件は何だった」


 戻ってきた堂園(どうぞの)長谷川(はせがわ)に捜査第1課馬場(ばば)課長は駆け寄る。ずっと不安な思いで待っていたのだ。もしかすると自分の進退にもかかわるかもしれないと気が気ではない。口ごもる長谷川(はせがわ)馬場(ばば)は何を言いよどむ、と訝し気に見つめ堂園(どうぞの)に視線を向けた。

 課長の視線に堂園(どうぞの)もなんて報告すればよいのか悩み言葉が出ない。


「おい」

「強盗殺人周辺の監視カメラのデータを頂戴しました」


長谷川(はせがわ)はSDカードのことだけをまずは報告した。神林(かんばやし)のことを報告せずに済んでほしいと願った。


「それはありがたいことだが、なぜ副総監が」

「その‥‥‥神林(かんばやし)組からの提供で」


堂園(どうぞの)がポツリと答えると馬場(ばば)が椅子から立ち上がり目を丸くして堂園(どうぞの)長谷川(はせがわ)を凝視する。ほかの捜査員もひそひそとマジかよとつぶやいているのが聞こえる。

長谷川(はせがわ)堂園(どうぞの)のカミングアウトにため息をついてからと驚愕から腰を上げた馬場(ばば)の耳に顔を寄せた。


「どうも、堂園(どうぞの)を気に入ったようで事件解決の糸口になるならと総長が直々に」

小さな声で囁かれた言葉に馬場(ばば)は丸くした目を更に開き小さくなっている堂園(どうぞの)を見る。身を小さくし自分を見る堂園(どうぞの)に詰めていた息を吐きだし馬場(ばば)は椅子に座り直す。

副総監が堂園(どうぞの)を何もしていないということはこのままでよいのだろうと一旦考えることを放置した。


「それで映像からなにかわかったか」

「はい。映像の一つに怪しい男が映っておりました。これがその男です」


長谷川(はせがわ)は印刷した映像を差し出す。差し出された紙を馬場(ばば)が見れば目がくぼみこけた男が印刷されている。目が飛び出しているように見え不気味な顔つきだ。


「前科がないか身元を調査しております」


長谷川(はせがわ)の言葉とタイミングを合わせたかのように資料をもって小太り鑑識員が入ってきた。


「お待たせしました! 前科ありました。福田(ふくだ)隆太(りゅうた) 45歳。銃刀法違反、窃盗(せっとう)で捕まってます」


事件資料の張り出されたホワイボードに資料を張り付ける。捜査員がわらわら集まり資料を確認しメモしていく。


「かなり危険な男だな。今も銃を所持しているかもしれない。すぐにこの男を捕まえるんだ」



馬場(ばば)の指示が捜査員たちに飛ぶと捜査員たちは返事と共に外に駆け出して行った。

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