プライバシーは薄く
「若!」
「たまにはいいだろ」
「いけません。若はトラブル吸引体質じゃないですか」
「そんなわけ」
「先ほども警察に捕まって」
「‥‥‥ありました」
黒木の遮る言葉に尊は肩を下げる。それを抱えるように後ろから隠岐が体重を乗せる。味方になってくれるのかと期待の目を向ける尊に男前に隠岐は笑みを向けた。しかし隠岐は尊の期待を裏切ってくれた。
「まぁたまにはいいじゃないか。それか条件をつけるとか」
味方になってくれたと一瞬思った尊は続いた言葉に裏切りだという視線をぶつけ、それを隠岐は面白そうに受け止める。
「GPS埋め込みますか」
「はぁ! 俺のプライバシー!」
「いいですね」
「良くないよ!」
隠岐の言葉に黒木が賛同する。尊はたまったものではないと逃げ口を探した。そこに還田、木下、橋が顔をのぞかせた。
「おかえりなさい、総長」
「還田さん2人を止めてください! 俺にGPSを埋め込むって」
尊の言葉にあららと軽くあきれながら
「総長にもプライバシーという‥‥‥ものが」
と言いかけた還田は一旦口を閉じて言い直した。
「ものはありません」
還田も尊の期待を裏切って隠岐と黒木に賛同した。黒木も隠岐も目が本気でこれは逆らうべきではないとわかった。裏切った還田から素早く木下、橋に縋りつくが苦笑いの無言の謝罪をされた尊はうなだれるしかない。
「決定ですね」
「総長だぞ!総長の命令」
「これは関係ありません」
これまた遮られた言葉に尊は信じられないと黒木をみつめ、本気だと気がついた。困ることになる前に尊は宣言した。
「腕時計を必ずつけます!」
尊の宣言に当然だと頷き黒木はポケットから腕時計を取り出し腕時計を付け替えた。尊はまるで手錠だと恨ましく腕時計を見つめた。
付けられた腕時計を見ながら歩き出す尊に組んでいた肩を外そうとした隠岐をちょいちょいと尊が引っ張った。そのまま引っ張った指で伊達眼鏡を軽く叩くとにんまりと尊は笑った。
隠岐は目を丸くしその場に立ち止まりするりと肩を抜きながら先を歩いていく尊を凝視した。
「どうしたんですか?頭」
還田が立ち止まった隠岐を不思議そうにみたが、隠岐はすぐに笑うとなんでもないと返し急ぎ足で尊を抱きしめるように肩を組んだ。眼鏡にGPSがついていることに気がつきながら、つけてくれる尊に隠岐は嬉しそうに笑った。




