3の獲物、14の銃弾
2日後、本部にずっと詰めている尊に本居から連絡が入った。それは犯人の行動を把握したという。
尊はこの連絡待ち望んでいた。尊は下手なことはできないと緊急幹部会でいったが、報復を行わないとは言っていない。
連絡を受けて尊はすぐに行動を開始する。
「もしもし隠岐さん」
“なんですか”
「いまから殺すので大国組に動きがあれば連絡ください」
尊はそういうと携帯をきりワイヤレスイヤホンを片耳に差し込む。銃の確認を念入りに行う尊を黒木はじっと見つめた。
「なに?」
ずっと見ているだけで何も言わない黒木に尊は視線を向けず、準備をしながら問いかけてやる。
「本当にお一人で」
尊が視線を黒木に向ければ心配だとありありと顔に出ていた。尊は苦笑しつつ理由を黒木に教える。
「このテナントは狭いから一人のほうが動きやすい」
「ですが」
それでも黒木の声にはやめてほしいという思いがにじみ出ている。ため息をつく尊は手首につけた装置を見せるように腕を上げる。
「GPS以外に心拍数まで監視されているんだ。それをみて判断すればいい」
尊はそういい残すと夜中1時の千葉県の町に出た。少し先に見えるテナントビルを目指し歩きながら頭の中で最終確認を行う。昼間に橋が2階の部屋に侵入し窓を開け待機しているはず。
裏通りで人通りも少ないそこから侵入し5階にいる獲物をしとめる。
「(ただそれだけの作業を行うだけだ)」
と尊は気持ちを落ち着かせる。落ち着けても緊張が高まる尊の感覚はどんどん鋭くなり、小さな音、振動を捉え始めていた。
尊は鋭くなる感覚と同時に頭痛を感じ苦笑する。本居の報告ではいい感じに酒を飲んで緩んでいる、という。緊張することないと言い聞かせた。
尊はバンダナで髪を落とさないようにするとフードを深くかぶり、そして黒いマスクをはめると少し上に垂れる紐を引っ張る。壁を足場に引き上げられるように2階に侵入した。
「少し離れたところに黒木たちが待機している。裏口からいけ。扉を閉めるな」
「はい!」
橋は言われたように行動を開始し裏口から黒木たちのいるポイントに帰路に就くサラリーマンを装い歩いて向かう。それを尊は橋を見送ると階段を静かにそして素早く上る。
「仕留める獲物は3・・・・・・撃ち込む弾は14」
尊はこれからすることを口に出す。思わず打ちすぎてはやりすぎというもの。
尊は本居から預かった鍵で事務所の扉を静かに開けた。5秒間、音、振動の変化で中を伺う。変化のないことに尊はゆっくり開け幅を広げ、中をみた。
酒臭い空間の中、男たちがソファーやパイプ椅子に寝ていた。神林組を襲撃した緊張感からアルコールに逃げたのかもしれないと尊は男たちを見下ろす。反撃することがなさそうな男たちに緊張が少し解けた。
尊は少しつまらないなと感じる自分に苦笑しながら銃を構える。
「撃ち込む弾は14」
隠岐は江東区大島の大国組がいるビルを見張るアパートで還田ときられた携帯電話を見ていた。
「頭・・・・・・どうします」
「どうするもなにもなぁ。まつしかねぇな」
隠岐も還田も予想はしていたが早い尊の行動に驚いた。しかし慌てず、尊を信じ大国組の動きを監視し続ける。
そして、15分後にもう一度携帯電話が鳴った。
「総長だ」
隠岐はなにかあったのかと急いで通話にして耳に当てる。殺すといってから早すぎる2度目の電話に還田も心配になり隠岐の携帯に頭を並べ耳を当て尊の声を聴いた。
“殺したけど騒ぎもしないから大国組は明日にならないと動かないかな”
「「えっ?」」
“え?”
隠岐と還田のえ?という言葉に電話の向こうの尊からえ?と帰ってくる。5秒ほど無言の電話が続いた。
「殺したんですか?」
“だめだった!?”
「いやいや!? 15分しかたってないですよ」
還田が思わず隠岐の耳元で大きく返事を返してしまった。隠岐は『殺したら駄目だった?』と慌てる尊をくすくすと笑った。
“あっけないよねぇ”
「そうちょおぉ」
還田から疲れたような力の抜けた声が漏れ、隠岐は肩をたたき慰めてやるともう一度携帯電話を耳に当てた。
「大国組が動き出したらどうしますか」
“受けて立つ”
「へい」
尊の低い声に隠岐も還田も電話越しながら姿勢を正したが次の尊の言葉でやはり総長だと力の抜けた笑いを漏らした。
“まぁ、被害が出ない限り放置でいきますけど”
次の日、大国組は騒ぎで特に鷹取組は慌ただしかった。
それも当然のことだ。千葉に身を隠させていた3人の組員と連絡が取れず、確認すれば3人とも殺されていたのがから仕方がないことだ。
現場を見たものはその光景にぞっとして中には吐き気を催す組員もいた。2人は致命傷になる傷を2か所か受けていた。即死になる傷でよかったと思えるほどの遺体が1つ大国組組員たちの前にあった。
致命傷にならないような銃弾が掠った傷、指が吹っ飛び、出血多量で死んだと思われる血が広がるカーペット・・・・・・
「むごいな」
「カメラの映像は」
首を振る組員に鷹取は壁に怒りをぶつける。
カメラには誰一人写っていなかい。理由は簡単、本居が調べて死角になるルートとカメラの一部破壊を行っていたからだが、古いテナントビルで誰一人カメラ不具合を疑うものはいなかった。
「これは」
「親分! すいやせん! こんな恥さらして」
現れた日焼けした彫りの深い顔立ちの男に鷹取は頭を下げ、詫びを入れる。
この男こそ関西最大暴力団組織大国組組長 幡中 王祐である。武闘派で知られる幡中が見ても目の前の惨状はすさまじいものだ。
「地獄絵図そのものだ」