両手の下でゆがむ
2時間前まで尊たちも楽しんでいた居酒屋は夏の暑さと湿気で血の匂いを留まらせあたりを包み込んでいた。
「應武さん!」
「総長!」
襲われた應武組経営の居酒屋の入口すぐに應武が腕を押さえながらたっていた。尊は應武の怪我がひどくないことを確認しほっと胸を少しだけなでおろす。
すでに警察が入り鑑識が店を広げ、刑事らしき人達が調査していた。死んだ組員に近づくことはできないのかと尊はサングラスの下で目を伏せ、せめてとその場にしゃがみ込み手を合わせた。黒木たちも尊に続き居酒屋の入口から組員の遺体に手を合わせ冥福を祈る。
「相手は」
「すいません・・・・・・ただレジの金を全部取って逃げたのでものとりかと」
應武はただの強盗にやられたのだと情けなさから顔を伏せてしまう。神林組の幹部が聞いてあきれると應武は自分で思った。尊はたまたま應武の居酒屋を狙ったのかと疑問に思ってしまう。
身内の身にそんなことおこるはずがないという精神から来ているかもしれないが、しかし引っ掛かるものを感じると尊は店内を見渡した。なにか手掛かりになりそうなものがないかと店内を見渡す尊に應武が声をかけた。
「総長、来てくださりありがとうございます・・・・・・そろそろお戻りになったほうが」
應武がそういいながら警察のほうをさりげなく指し示せば、警察が険しくそして訝し気に尊を観察していた。神林組系大竹組組長が腰を低く対応する尊の存在は警察にとって異様で警戒心と好奇心をくすぐられる。
尊はこれ以上ここにいては厄介だと急ぎ足で車に乗り込み現場から立ち去った。それを逃がすように見送り、子分の遺体を入口から見つめる應武に警察から声がかかる。
「さっきのはだれですか」
「いつもお世話になっている方のご子息です。それ以上お答えするつもりはありません」
應武は息をするように嘘をついた。應武の答えに警察は暴力団の癖になめやがってと思うが吐かせるすべを持たない。悔しいながらも警察官はそれ以上の詮索はやめた。そして車のナンバーから割り出してやろうとメモを取る。しかし、割り出したところでだいたいは組員の名前なので尊に行き着くことはないだろう。
車に乗り込みすぐに尊は本居に電話をかける。毎回のことだが、コール3回で本居は尊の電話にでた。
「調べてほしいことがある。お前も聞いただろうが應武さんの経営する居酒屋が襲われた。やったやつを調べろ」
それだけ言うと通話をきり、深くそれは深く尊は息を吐きだし、両手で顔を隠すようにおさえる。沸き上がる怒りとどろっとした暗い感情に尊の顔は手の中でゆがんだ。
應武の組員とは言え尊にとっては大切な應武の一部のようなもの、そして何より應武を傷つけたことすべて尊にとって許せない罪・・・・・・