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6代目総長の極めし道  作者: ジロ シマダ
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川熊組の裏切り

 会合が終わり、川熊(かわくま)は尊を誘った。


 「2人だけでお酒を酌み交わしたいのですが」


黒木のいけませんという視線を無視して、尊はにべもなく了承した。尊としてもほかの組長とさしで話してみたいと思っていた。




 「今回は本当に申し訳ないことをしました」

 「過ぎたことですし」


川熊(かわくま)はずっと気になっていたことを聞いた。


 「自分のたまをとられかけたのにこれでいいんですか」


 たしかにやられたら同様にやり返すのはある意味で恐怖だが、が普通であれば殺されてもおかしくなかった男は警察で取り調べを受けている。ある意味あの男にとっては安全ともいえる場所だ。


 「死んでませんし・・・・・・それに俺のために組員がむだな血を流す必要はありませんよ」


尊の答えに川熊(かわくま)はさすがだと笑い、尊もつられて軽く笑う。


 「でも組員を傷つけられたらただではおきませんよ」


 ラウンジの淡い明かりのなかでにっこりと笑い自分を見る尊にかなわないと川熊は小さく笑う。自分と比べることすらおこがましいと思える。



 ゆるりとなにも話さずただただ静かにグラスを傾ける年若い尊と飲む時間がこんなにも心地よいとは思わなかったと川熊(かわくま)が感じていれば、外から騒がしい音が聞こえてくる。


 「黒木、見てこい」

 「山岸、最後の命令だ。みてきなさい」


 黒木は尊に動かないようにいうとラウンジから山岸と一緒に消えるのを見送り、騒ぎの音が続くのを聞きながら尊は黒木に心のなかで謝ると立ち上がった。


 「川熊(かわくま)さん、いきましょう」

 「えっ?」


 近寄って来ていたウェイターがお行儀よく後ろに回していた右手を振り抜いた。空気を切る音と川熊(かわくま)のグラスが落ちて割れる音が重なった。


 尊は川熊(かわくま)の頭をぐっと押さえ込んで刃物を避け、すぐに次の一手を繰り出す。

しゃがみこんだまま足を払い、倒れるウェイターを見向きもせず踏みつけると川熊(かわくま)をたたせると裏口を目指す。

 「おっと」


 尊が扉を開けた瞬間、きらめく刃物をまた避けると靴底でけりをいれれば、酸っぱい臭いが漂う。

わぁと餌を見つけた(あり)のようによってくる敵を始末しようと構えた時、ガクンと右足を引っ張られた。下をちらっと見れば、裏口すぐで蹴り飛ばした男が尊の足をとらえていた。

 尊は抵抗せずに肘をたてながら男の上に重力のまま落ち、カエルを潰したような声が男の喉からなる。


 追い詰めるように迫り来る日本刀を尊が転がってよけ続けるのに(ごう)を煮やし大きく振りかぶったところをみぞおちに蹴りをいれてやる。前屈みになる男の頭をもち立ち上がり、頭を押さえつけ膝とプレスすれば、尊の膝に男の鼻が砕けるような感触が伝わってくる。


 襲ってきた3人を伸した尊は丸い目で自分をみる川熊(かわくま)をみた。目があった瞬間、川熊(かわくま)の後ろに1つの影からぬっと現れるのが尊の目に入り舌打ちを鳴らした。


 「ちっ!」

 尊が川熊(かわくま)の体を自分の方に引き寄せれば、驚き振り替える川熊(かわくま)を刃物が撫でるように通過し撥ね飛ばした。街灯に照らされる空間に赤色と肌色が舞った・・・・・・



 手を押さえうずくまりそうになる川熊(かわくま)を引っ張り尊は走った。刃物を振るった山岸の後ろに数人の影を確認し手負いの川熊(かわくま)を庇いながらは無謀だと判断する。





 「一旦ここなら」

 険しい顔で尊は川熊(かわくま)を引きずり、裏通りに身を隠す。影で身を小さくするとハンカチを取り出し、川熊(かわくま)のなくなった指からとめどなく流れる血を押さえる。川熊(かわくま)は痛みに耐え、尊に謝った。

 尊は川熊(かわくま)の言葉に気を遣う余裕はなく、黒木に連絡を取ろうと胸ポケットに手をやって気がついた。入っているはずの携帯電話がなかった。盛大に尊は顔をゆがめる。 


 「ちっ!」


 尊はさっきの乱闘で滑り落ちたのだと、黒木たちに連絡をする手段がないことに舌打ちした。尊は近寄ってくる複数の気配に銃を取り出すがすぐに腰に戻した。発砲した瞬間、敵がよってくることはかなり拙いともう一度舌打ちする。

 尊はしゃがみこむ川熊(かわくま)(ふところ)に遠慮なく手を入れ、短刀を取り出した。尊は川熊(かわくま)(ふところ)に短刀を仕込んでいることに気がついていた。


 「ここを動かないように」


川熊(かわくま)は悔しいながらも足手まといだと尊の言葉に頷いた。




 尊は壁にぴったりと背をつけ息を整え、そしてこれから考えられる状況をシミュレーションを短い時間で2回行うと、尊はふっと短く息をはいて暗がりから飛び出した。脇においてあるゴミバケツを勢いをつけて転がし、バランスを崩す手前の2人の腕を切り裂く。


 振り抜いた勢いを殺さず次は回し蹴りを腕を押さえる敵の後ろに叩きこむ。今度は足をつけると同時に壁にぶつかるように右に体をずらせば、敵の刀が尊の横の空を切る。よけたことでバランスを崩す男の後頭部を尊はつかむと反対の壁に顔面から叩きつけた。


 尊はすぐに別のすじに身を隠し短刀の刃を確認すれば手入れが悪いのかすでに切れ味が悪そうななりをしているのにため息をつく。

 「ちゃんと手入れしてくれよな」


 コツン


静かな裏通りに足音が聞こえた。尊は鈍器に成り下がった短刀よりは、と銃を顔の前で構えると近寄ってくる足音の距離を測る。近づいてくる靴底の音に尊は一度目を閉じると深く息を吸い込む。先の戦いで上がった血を下げる。

 冷静にタイミングを計った尊は銃を構えて躍り出た。しかし、尊は握った銃のトリガーを引くことなく腕をおろす。

 尊の動きとは対称的に対面に立つ男は腕をあげ、トリガーを引いた。尊の耳の横をものすごい速度が走り抜けた。


 サイレンサーの銃は暴力的な音もたてずに弾丸を吐き出す。耳横を過ぎる音に遅れ、後ろでなにかが倒れる鈍い音がするが、尊は後ろを確認しなかった。ただ、店の前を警備しているはずの隠岐(おき)を苦笑いを浮かべて見つめた。


 「ありがとうございます、隠岐(おき)さん」

 「なぜお一人なのですか」

 「なりゆきで」


目をそらしながら尊は隠岐(おき)に答えたが隠岐(おき)は尊へ距離をつめる。


 尊は隠岐(おき)の雰囲気と物理的に押されて後ろに下がるが壁に背中が辺りこれ以上下がれないと気がつく。尊はすこし上にある隠岐(おき)の顔を気まずく見上げれば普段と違い、真剣な色を湛える目にどぎまぎした。


 「隠岐(おき)さん・・・・・・」


隠岐(おき)は『どん!』と尊の顔の横に手をつき尊をじっと見つめた。



 「総長・・・・・・目の届くところにいてくれないと俺が困ります」


尊はなにか言おうと口をすこし開けたがすぐに閉じ、一拍おいて困ったように笑った。


 「いつもどこかいくのは隠岐(おき)さんでしょ」


 「・・・・・・ははは! ちがいない!」


 隠岐(おき)は尊の言葉に違いないと笑うもやはり目の届くところにいてほしいとわがままを思う。尊は壁から背中を起こすと自分の格好を確認する。地面を転がったせいか汚れていない部分の方が少なかった。

 

 「ずいぶん汚れましたね」

 「あはは」


尊からは隠岐(おき)がそういいながら背中を払うのに乾いた笑いしか出ない。


 「若!」

 「総長!」


 どたばたと黒木たちが2人のところに走ってくる。黒木たちは上から下まで尊をみるとほっと表情を緩めた。還田(かんだ)は銃で肩を叩きながら首を回す。しかし、黒木はもう一度表情を固くすると尊に詰め寄った。


 「どうして外に出たんですか」

 「仕方なかったんだよ」

 「連絡もつかなくてどれほど心配したか」


黒木の言葉に尊は困ったように目の横を掻いた。


 「戦ってる間に落としちゃった」

 「ちゃった、ではありません」


尊のしゅんと下がった肩を隠岐(おき)が叩いた。


 「それくらいでいいだろ?」


黒木は甘いんだからとぶつぶついいながらも引き下がる。


 「そういえば川熊(かわくま)さん保護してくれた?」

 「はい。病院に運ばせました」


 尊はその言葉にぐっと腕を伸びをした。夜空を見上げ、緊張下でストレスを受けた頭が痛むと尊は眉間に皺を寄せた。帰って休みたいと尊は小さく疲れた笑みを浮かべ隠岐達をみた。


 「・・・・・・帰ろう」

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