最高に愉快で不愉快
「おはよう」
「おはようございます、若」
「おはようございます、総長」
還田はあの日から本邸に住み始めた。2日しか経っていないが尊は違和感なく受け入れ、黒木と還田の掛け合いを楽しんでいた。
「おはようございます」
「隠岐さん! おはようございます。今から朝食ですが一緒にどうです?」
隠岐が朝から本邸に顔を覗かせる。隠岐は尊の誘いに是非とも笑顔で答える。
「でどうでした?」
緊急幹部会のあと尊を襲ったのが東北の川熊組組員だとわかり、隠岐が尊の命令で東北に赴き探索してきていた。
「組長の川熊はなにも知らなかったようで。神林組の総長を襲ったのが自分のとこがしでかしたと慌ててますよ」
帽子をくるくる回しながら隠岐は報告をした。食後のプリンを掬いスプーンをくわえて尊は笑った。
「あららぁ、あっ、このプリンうま!」
尊はおいしさにもっと笑顔になりプリンをすくう。扉の近くで橋がとてもうれしそうな顔で小さくガッツポーズをしていた。頑張って作った甲斐があるというもの。
還田は隠岐の報告に首を訝し気にひねる。
「組員が勝手に暴走したということですか」
組長に何も言わずにやるにはことが大きすぎると誰でも思うことである。隠岐もそれは疑問に思ったと頷き、この場にいる誰もが聞き捨てならない答えを言った。
「あぁ、今の神林組など怖くないといって」
「「・・・・・・」」
「なめやがって!」
黒木も還田は憤慨しプリンを持ったまま立ち上がり吠えた。対照的な笑い声が響いた。
「あははは!」
突然の尊の笑い声に黒木と還田はぽかんとしながら、尊を不思議そうにみた。下を向きながら笑っていた尊が顔を上げた。その顔はにんまりという音が付きそうな笑みが張り付いていた。
「たかが東北の一角を支配しているだけなのに大きく出るねぇ。最高に愉快で・・・・・・不愉快だ」
尊の表情に隠岐と黒木は気持ちが高ぶる。そして還田は初めて見る尊にぞくりと背中に寒気と興奮が走るのを感じた。還田の口角も沸き立つ感情で自然に上がってしまう。
「川熊がどこにいるかわかりますか」
「こっちに向かってきてるようですよ」
「へぇ」
面白いと目を細める尊の口に最後のひとすくいが消えた。