緊迫の警視庁
静かになる会議室にコツコツという規則正しいリズムカルな音が聞こえてきた。会議室にいるものすべてが扉のほうを見ていると扉が開かれハンチング帽をかぶったおしゃれな男が立っていた。ハンチング帽を親指で軽く押し上げながら軽く頭を下げ会議室に入る男に尊の気分が大分上がった。
警視庁では緊急対策会議が開かれ、暴力団対策課と捜査第一課が顔をそろえる会議室では全員が緊張感を持った様子で座っていた。
「昨夜23時頃、銀座クラブ コンソラトゥールの前で神林組総長神林尊が襲われた。神林はこめかみを弾丸が掠る怪我ですんでいるが暴力団抗争に発展する可能性もある。対策課は神林組と特に大国組の動きを観察し、報告するように、また捜査一課と犯人の特定と逮捕に全力せよ」
源田の言葉が終わると同時に力強く返事をすると班ごとに行動を開始する捜査員たちはさすがといえる。素早い動きで出て行った捜査員は暴力団関係の張り込み強化に向かい、会議室に一旦残ったメンバーは犯人の調査逮捕に向けて動き出そうとしていた。
「長谷川先輩、本当に抗争に発展するのでしょうか」
「どうだろうな。それにお前はそんなこと考えなくていい・・・・・・俺達は犯人逮捕に努めればいいんだ」
新人捜査員、堂園は先輩捜査員長谷川に不安そうな声を漏らす。長谷川も不安なところであるが自分たちでどうにかできることではないと捜査に集中する。
そこへ監視カメラのデータを鑑識員が持って入ってきた。捜査員が早く来いと少し太めの捜査員に手招きをして指示を出す。
「スクリーンに映せ」
源田の命令に慌てたように鑑識の男はモニターにPCを接続しモニターに小さな尊たちの姿が映し出し出された。鑑識の男が再生を押すと楽しそうな声がはっきりと聞き取れないが聞こえてくる。
堂園は少し羨ましく映像の中の人物たちを見てしまった。高級クラブで遊ぶことなど堂園からすれ
夢のまた夢。映像が進んでいき、尊が銃撃され堂園は痛そうだが、運が良かったなと思うが原田は違った。
「さすがだな」
源田が漏らす感嘆を含んだ声に堂園はどういうことだと画面をよく見るがよくわからない。それは長谷川やほかの捜査員も同じだったようでおずおずと源田に尋ねた。
「なにがさすがなのでしょうか」
「神林をアップして再生しろ」
鑑識の男が言われる通りに神林をアップして何度か再生させて、長谷川はあっという声を漏らした。
「まじかよ」
「先輩?」
長谷川は尊が撃たれる一瞬前に体を少しずらしいることに気がついた。ずらさなければ後頭部を貫かれているはずだと調査資料の軌道を見ながら長谷川は信じられないと驚く。
「体をずらしてなければこの男は死んでいたはずだ」
長谷川の言葉に堂園は目を見開き、繰り返し再生される映像をみた。そんなことが可能なのかと捜査員も目を丸くした。
「神林は危機察知能力が異様に高い・・・・・・化け物化と思うほどにな」
源田は捜査員の反応に頷きながら映像に映らない犯人を忌まわしかった。暴力団の抗争など発生すれば一般人にも被害がでかけねないと眉間にしわを寄せる。
「さすが神林の6代目だ」
会議室の後ろから聞こえた声に皆が振り返ると副総監である山戸が立っていた。大物の登場に位置捜査員は身を固くしてしまう。
「副総監、なにか」
「気になったから見に来たんだ。ついでに伝えたいこともある」
会議室の前のほうに近づいてきてモニターを見つめる山戸に源田は何を考えているのかわからず嫌な感じを覚えた。源田以外などは上司の上司の上司くらいの人物に体を固くするので精一杯で何も考えていない。
「伝えたいこととは」
用件だけ言ってさっさと退室してもらおうと源田が山戸に促せば、山戸はモニターから源田に顔を向けた。
「総長から連絡が入った」
「なんと」
神林組総長からの連絡ということで緊張感が源田以外に走る。やはり抗争に発展でもするのだろうかと。もし抗争に発展するのであればわざわざ連絡などしないという思考にはさすがの源田もならない。それほどまでに焦燥に駆られていた。
「組員には自粛を命じたそうだ」
「自粛・・・・・・ですか」
「そうだ」
つぶやく堂園に山戸は返事を返してやる。
「はぁ」
源田は肺にたまった空気を吐き出し、なんだかんだと尊のことを信用している源田は自粛という言葉に胸をなでおろす。しかし、問題なのは襲撃したものの素性と暴力団であった場合の所属する組の動きだと源田はすぐに撫で下ろした胸を逆に撫で上げた。
「ただ『襲撃したものを見つけ次第、その者だけに制裁を加えるかもしれませんね?』だそうだ」
尊の口調をまねしながら山戸が言えば源田は顔を引きつらせた。警察に制裁するけどいいよねと確認する奴がどこにいると怒りたい気分だ。捜査員は制裁を加えさせてもいいのかと顔を見合わせ困惑した。
「犯人殺されるんじゃ・・・・・・ねぇ、先輩」
「かもな」
少し顔を青くしながら会話する堂園と長谷川に山戸が諦めたように笑う。
「殺されはしない。あの総長は、『目には目を歯には歯を』っといって同じ目に合わせる性格だ。おそらくこめかみをかすめるように撃たれて終わるだろう」
『目には目を歯に歯を』というのは恐怖でしかないと捜査員一同の心は部署の垣根を越えて一つになった。