神林組6代目総長
場所は関東最大組織神林組本部大会議室
ここに一般の人間がいるはずもない。やくざ、極道という屈強で荒れくれたちの組長が顔を連ね、そして組長と9千人の組員の頂点に君臨するのは男たちを見渡す若い男
”6代目総長 神林尊”である。尊は一般人として生涯を終えるつもりでいたが、両親の死によって25歳という若さながら総長の座についていた。
暴力団とは
『暴力あるいは暴力的脅迫によって私的な目的を達しようとする反社会的集団』
なにかと問題を起こす集団であるが日本、いや日本だけでなく国外でも『ヤクザ』として映画や娯楽作品に影響を与えている。
現在、日本には
北は北海道『三土組』
南は九州『井迫組』
西は関西『大国組』
そして
東は関東『神林組』
大小様々に存在していた。
これは若き 神林組6代目総長の物語 である。
東京都六本木に構えるビル3階の大会議室で決められた席に座る男たちは、厳つくそして目付きがよいとはいえない。男たちの顔はどう見ても一般人のそれではない。いかつい男たちが作り出す重々しい空気に耐えきれないのか指の腹で白い机を叩き始めるものが出てきた。
せわしなく規則正しく鳴る音に誰もがいらだちを隠さず眉間にしわを寄せる。厳格な会議室の空気が一層重たいものとなった。
「ダサあんこ、うるさいぞ」
ひょろ長い|聖が頬杖を突きながら目の前で音を出している自分とは対照的に大きく太った男に文句をいった。その文句に音は一瞬止まるがより大きな音で鳴り始めるのに舌打ちして名指しした。
「栄! お前に言ってんだ!」
名指しで怒鳴られた栄はぷくぷくな指をわきわき動かし、鼻を鳴らす。
「わしのことだったのかぁ! へちまーさん! へちまのようにスカスカの頭でぼけたのかとおもったわ! ぎゃははは!」
対面で目をわざとらしく丸くし栄が爆笑すれば栄に聖はかっとなる。
「んだと!俺には聖二郎って名前があるわ!」
「わしにも栄仁というかっこいい名前があるわ! ダサあんこじゃないわい!」
お互いに机をたたきつけると会議室の真ん中に躍り出ると顔を突き合わせにらみ合った。
聖は背が高く体も細目のため、栄からへちま野郎 と呼ばれ、栄はダサ眼鏡のあんこを略し、聖からダサあんことお互いをけなすような渾名で呼びあっていた。
小さなことで小競り合いを始める2人の相手はこの中の誰もが関わるだけ無駄だと放置する。会議室の中心で睨み合う栄と聖は呆れた顔で他の幹部が見ていることなど気が付いてはいない。いつかキスでもするのではないかと思うほどの近さで言い合いをし続ける栄、聖はドアノブが回転する音に言い合いをやめてばたばたと席に戻った。
言い合う声が漏れる会議室前に笑みを浮かべた若い男と泣きほくろの男が立っていた。茶色の扉を見ながら中の様子がまるで透けて見えるかのようだと若い男はくすくすと楽し気に小さく笑い、もう一人は呆れたように首を振る。
「仲がいいよな、あの二人」
「そんなこと言うのは若くらいですよ」
「そうかな? 黒木は仲が悪いと思う?」
「悪いとは思いませんけど」
なんとも歯切れの悪い言い方に男は笑うと扉のわきに控える男2人に目配せすれば、扉のわきに控える男たちは若い男につられていた顔を引き締め頭を下げた。2人はノックなしで両扉をあけ、若い男を中に招き入れ一言室内に告げる。
「総長がお見えです」
会議室の男たちは入ってくる男を出迎えるように一斉に立ち上がった。
白い壁に廊下から続くダークグレーの床、両サイドに並ぶ机と見渡すように奥に存在感を放つ黒い机が若い男を迎える。若い男は会議室の真ん中を通り黒い席の向こう側に立てば、黒木が椅子を下げるのに当然のように座った。黒木は体の前で手を重ね若い男の後ろに控えた。
「お待たせしたようですね、皆さん。幹部会を始めましょう」
座った若い男はいかつい男たちの目つきの悪さもなんのその穏やかな声で幹部会の開始を宣言した。
場所は六本木、神林組本部大会議室
ここに一般の人間がいるはずもない。やくざ、極道という屈強で荒れくれたちの組長が顔を連ね、そして組長と9千人の組員の頂点に君臨し、この大会議室でいかつい男たちを見渡す若い男は”6代目総長 神林尊”だ。その尊は一般人として生涯を終えるつもりでいたが、両親の死によって25歳という若さながら総長の座についた過去をもつ。
つい先刻まで言い合いをしていた栄と聖は尊の視線から逃げるように視線をそらす。尊は2人はいつものことだと気にするのも無駄、まずは会議だと1番右手の真面目そうな七三分けの男に尊は視線を移した。
「湖出さん、今日の議題は」
「はい」
湖出は書類を手に立ち上がり、組のトラブルや懸念事項を渋い声で述べていく。途中途中で意見を出し合いながら幹部会が進むこの光景はほかの企業と何ら変わらない、違うことといえば時折混じる生々しい議題くらいなものだ。
「貫谷組のシマで薬の売買が横行しているようです。貫谷さんが目下探索中で見つけ次第処理しております・・・・・・総長何かございますか」
最後の議題になった瞬間、湖出は声を若干固くして尊の雰囲気を伺う。知らないものが見れば年上の男が26歳の男に何をビビっているのだと思うことだろう。しかしビビるのには訳があった。
薬が絡んだ尊は冷徹、この一言につきた。総長になって半年目にも同様に薬の売買が横行したことがある。神林組のシマで横行し尊はその報告を受けて3日間で根元から組織を壊滅させた。その時の尊の殺気と怒号、そして冷徹なまでの仕置きには誰もが恐怖を感じた。昔から知っている自分たちの総長にこのような一面があったのかとガクブルと情けなくも震えた。
冷徹の再来かと皆が特に貫谷が伺うのに尊は組んでいた指をほどき、身体を机に寄せ貫谷をみた。
「早急につぶしてください」
その一言に貫谷は右の一番奥で顔をハンカチで拭いながら
「はい!」
と答える。早く始末をつけなければと心臓をきゅっと引き締めた。流れる汗を拭い頭を下げる貫谷に尊は念を押すように頷いた。尊は湖出のほうへ視線を戻し湖出の手元を見て、最後かなと判断した。
「これで終わりですか」
「はい」
「予定より早く終わりましたね」
尊は腕時計を見ながらそういうと席から腰をあげる。シルバーの盤の針は8を指している。いつもの幹部会よりも1時間は早い終了時刻だ。
「みなさん、あーと、隠岐さんはいないけどおつかれさまでした」
左の一番近い空席を見て笑う尊に聖が手をもみながら声をかけてくるのに、気持ち悪い近寄り方をする聖に尊は若干引き気味だ。
「総長、クラブにお付き合いくださいませんか」
まさに猫なで声といえる声をだす聖に尊は今度こそ鳥肌をたてた。それは尊だけではなかったようで、栄など聖の後ろでえずくように舌を出している。栄の面白い顔から目をそらし尊は悩むそぶりをみせ返事を返した。
「わかりました」
悩んだそぶりを見せておけば途中で抜けても予定があったのだと勘違いしてくれることが多いから尊は面倒な付き合いはそのように対応をしている。
尊の気持ちなど知らず嬉しそうにお礼をいいながらスキップでもするのではという足取りで会議室を出ていく聖の背中を見送る。聖の様子に尊は肩を落とした。
「付き合いも大切だよな」
小さく呟かれた言葉は面倒だという思いが滲んでいた。
<登場人物>
神林尊:神林組6代目総長
+性格は穏やかで優しい今時な青年
-性格は大切なものを傷つけるものは排除、報復する
それもやられたことをそのままやり返す