晩餐会
時計を見ると19:00だった。大広間にはこの屋敷内にいる全員が集まっている・・・・。いや、ハーフエルフの女の子はいないようだけど。
「皆さん今日は私の誕生日パーティを行う予定でしたがご存知の通り諸事情により中止になりました。せっかく用意していた食材もありますし、今夜はここで晩餐会を行います。さらにせっかく来ていただいた芸人の方もいらっしゃるので余興としてのちほど披露して頂きます。それまでしばしご歓談下さい・・・」
こうして大広間で晩餐会が開かれたのである。
「おおっ・・何かうまいな・・どれも見たことない料理だけど味付けがちょうどいいや・・」
向こうにはヘビの蒸し焼きやトカゲの串焼きと言ったゲテモノ感のある料理も置いてあるがソッチには手を出そうとは思えなかった。
「でも・・・みんな意外に喰ってるな・・実はおいしいのか?」
異世界の文化の違いには今も慣れない部分がある。
アリッサさんやウルフィーさんが食事を運んでくる。少し離れた席でフゴーさんも護衛に囲まれていて変わった様子はない。・・・でも必ず何かが起こるはず。静かにそのときが来るのを待っていた。
他の人たちも各々自由にしている。不振な動きは見られないが何かしらで部屋の外への出入りはある。厳しくついて回ることもできなくはないが・・・やはりフゴーさんの側にいるのが一番良さそうだ。
しかし・・・ホゴーさんが目に付いて仕方ない。そっくりすぎて鬱陶しいぐらいだ。着ているものも一緒だし唯一違うのは胸のブローチだろうか。フゴーさんが緑でホゴーさんが青だ。禿げてくれればわかりやすいんだけどな・・・。
そして時間が流れる。大広間の時計を見ると21:00になっていた。
「皆さんそろそろ余興の準備を始めます。どうぞ前でご鑑賞下さい」
と言うや奥の書斎へ向かうフゴーさん。
「あのフゴーさんどこへ行かれるのですか?」
「奥の書斎で余興を見るのですよ。アソコは壁も厚いし外からの侵入も不可能。心配せずとも護衛を1人連れて行きます。扉はもう1人の護衛が守りますから誰もはいれません。神官殿は外の余興をご覧になって下さい」
??どう言うことだ?あの部屋からこの大広間は見えないはずだけど・・・・。
「そうだ!こうしませんか・・・・。この扉の鍵を神官殿が持つ、そして扉の前にはダンが立つ。賊が扉を開けるには神官殿から鍵を奪ってダンを倒さなければならない。あの扉は中から鍵を開けるか、この特注の鍵を外から使うかしないと開けられないので完璧な布陣だ」
フゴーさんは俺に鍵を押し付けるように渡すと、有無を言わさずロビンさんを連れて書斎に引きこもった。ドアの前にはダンさんがもたれ掛かるように守っている。なんだろうフゴーさんのあの自信は・・・何だかあの部屋にかなり自信があるようだけど・・。
わけもわからないが・・・我が神が満面に微笑んだ気がする。今、確実に何かが動き出した・・・そう感じたのだった。
21:30になると余興が始まった。先陣はカミールさんだ。蝋燭の明かりに照らされて無数の人形が踊りだす。魔法のオルゴールにあわせて踊る人形はミュージカル風に展開されている。
演目は200年前魔人と戦った7人の勇者の伝承らしい。まるで生きているかのように踊っている人形に小さな歓声が上がる。糸は見えないがやっぱり魔法によるものなのか・・・・。幕が閉じると小さな拍手が起こり終了となった。
薄暗いので周囲の動きが見えにくい。しかしフゴー氏は密室の中、扉の鍵は懐にある。一応ダンさんの動きさえ注意していれば問題ないか。
続いてはウロゴツムさんだ笛の音色に合わせて箱から小さな象が出てきた。さらに着飾った猿が追随する。巧みに行進しながら違和感に気づく、象が少しずつサイズアップしている。最初は両手で持てそうな大きさだったがいつのまにか巨大なサイズに変化している。天井まで到達しないかと思われた瞬間また縮んでいった。
象は元のサイズに戻ると笛の音と共にそのまま箱へと戻っていった。小さな拍手が起こって笛が終わると余興は終了した。あれは魔法なのかそれとも魔獣の類の生き物なのだろうか・・・・。
続いてはマリックさんだ。最初はトランプの手品から始まる。口から大量のトランプを吐き出す。これはコッチの世界にもあるんだな・・・。断頭台マジックでは落とした手足が自在に動きもとのようにくっついてしまう驚きのもの。
極めつけは首を落として残ったからだで首のお手玉をするマジック。あれは手品と魔法の融合なのだろうか・・・。瞬間移動のマジックもあり閃光の中消失、そのまま小さな拍手で終演となる。もちろんすぐに廊下の扉から現れたけど不可視の魔法なのだろうか・・・・。
こうして特に動きのないまま楽しい余興の時間が過ぎていった。