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次の瞬間、剛は電車の中で目を覚ました。
相変わらず車内は快適だった。うつらうつら顔を上げると対面の座席に誰かが座っている。大人の女性だ。白い薄手のマントのような衣装を身につけ、剛を見つめているのが判る。剛は女性の顔を見て驚いた。
「り、梨花子先生、加藤梨花子先生ですか! 」
女性は微笑んだ。
「剛くんお久しぶり」
「梨花子先生、梨花子先生なんですね」
「そうです」
梨花子先生は剛が小学三年生のときのそのまま、二十五歳の若々しい姿だった。
「先生、僕らの担任を辞めたあと、どうなさっていたのですか、ずっと会いたかったです」嬉しそうな剛。
「剛くん、私はねあの後──」
梨花子先生から目を離せない。外の風景は雑木林が続いている。空は雲一つない青空だ。
「亡くなったの」
「まじですか! 」──口が開いたまま戻らない。
「本当よ、癌で死んだの、お別れ会の時は既にあちこちに癌が転移していました。あの後三ヶ月程して私は死にました」
「じゃあ、今ここにいる梨花子先生は…」
「魂です」
と、三両編成のどことなく懐かしい電車は、雑木林を抜けて、徐々にスピードを落とすと、小高い丘の原っぱに作られた駅へと入って行った。コンクリートで造られたグレーのホーム。平屋建ての小さな駅舎は木造で白く塗られている。三角で赤いトタン屋根の中央には時計塔があり、丸く白い文字盤の零時、三時、六時、九時の場所には短い黒線、そして黒く長い長針だけが中央から伸びている。短針も秒針もない。零時のところで止まっていた長針は、電車が定位置に停まると、カチリ、音を立てて分で言えば一分の間隔を動いた。しかし、現世の時間の流れとは明らかに違う。
放心状態の剛は長針が動いた音で我に返った。




