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死のトンネルの中で身動きの取れない剛は、かすかに聞こえる子どもの泣き声に反応し声をかけていた。
「おじさんがついている一緒に頑張ろう」
だが剛の励ましも虚しく、そのうち泣き声が力無く小さくなっていくと聞こえなくなった。
「どうした、頑張れ頑張れ、きっと助けに来てくれるから、元気をだそう」
反応は全くない。岩と土、ルームライトが光を灯す助手席は、静まり返った。
パチパチ、ルームライトもかすかな電気音をあげると消えてしまった。湧き水で回線がショートしたようだ。再び真っ暗闇になる。コンクリートブロックの間から差し込む一筋の光だけが、僅かに車内を灯すが、剛には真っ暗闇にしか感じない。この場から逃げ出したい衝動に駆られるが身動き一つ取れない。言いようのない不安と恐怖がまとわりつく。背中の古傷に汗が沁みる。事故の衝撃で傷口が開いているかもしれない。背中の古傷が気になる、頭の中に麦わら帽子に白いワンピース、真っ赤なコンバースの女の子がフラッシュバックする。
君は一体誰だ? ──徐々に苦しくなってくる。
脈が激しく身体中を震わし、息をする吸う、吸う、吸う、息を吐けない──激しい過呼吸、呼吸の仕方がわからない。
「あの時と一緒だ、呼吸ができない──あの時ってなんだ、全く思い出せない」
自問自答する剛。
「俺は死ぬのか、ここで死ぬのか? どうしたらいいんだ? 」
思考には終わりがなくただひたすら脳内に渦巻くと『死』という発想を連れてくる。
「あああ、香織、佳奈…」苦しみの中そう呟くと意識を失った。




