12-1
新宿歌舞伎町の中をあてもなく走り続けた後藤は、左右をビルに囲まれた行き止まりにある四階建ての雑居ビルに突き当たった。
思いがけず足が止まり、息を切らして立ちすくむ。
そんな後藤を目に見えない何かが誘なう──降りて来て…。
「──」
不思議に思いつつ地下へと続く階段をゆっくりと降りた。
ガラス窓のついた入り口ドアのノブにはチェーンが何重にもかけられ、南京錠がかけられている。吊り下げられた木製の看板には紙が貼り付けられ、手書きで当分の間閉店しますと書かれていた。
後藤はガラス窓に顔をあてて訝しげに中を見た。
テーブルが一つに小さなカウンター。九つある全ての椅子はテーブルとカウンターに逆さにのせられ、営業していないサインを示しているようだった。
人は誰もいない。
しかし、そのカウンターの真ん中にうすぼんやりと影が見える。女性の影だ──影を凝視した。
見事なプロポーションに腰まである美しい黒髪、その影はゆっくりと後藤を見た。
思わず息を飲んだ。全身に冷気を感じる。紛れもない結城純恋だ。
「す、すみれ」そう言いかけた瞬間、影はゆっくりと消えていった。
ドアを開けようとドアノブをガチャガチャ動かしたが開くはずもない。その時背後から声がした。
「後藤さん、ここに来るのは何度めですか? 」
咄嗟に振り返る。




