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香織は香織で剛の発想力や企画力には人並み外れたものがある事に徐々に気がついていく。
しかし、お互いを認め合い、率直な意見を交わし常に一歩上を目指す姿勢は、二人とも同じだった。より良い物、より多くの人々の驚きと共感が得られる物は何なのか? 二人は追求した。
そして剛が二十七歳の頃書き上げた企画書が、諸岡の心を打つ事になった。諸岡に認められクリエイティブディレクターとして一本立ちが決まった時、香織も大喜びした。そして二人で飲みに行き祝杯をあげた後、香織は剛のアパートに泊まった。
いつの間にか二人の間には愛が育くまれていた。
香織はその時意外な物を目にした。
それはベッドで愛し合った後、水を飲みに起き上がった剛の背中を見た時だ。
背中に深掘りの五本の古傷を見つけたのだ。
「ちょっと剛、背中の傷どうしたの? 」
「これかい。子どもの頃についたらしいんだ・け・ど…」
むせかえるように息をすると吐けなくなり、呼吸困難になる剛、思うように呼吸が出来ず苦しい。そんな姿を見て不安になる香織。
剛はベッド脇に座るとゆっくり呼吸を整える。
「大丈夫? 」
「傷のこと思い出そうすると、苦しくなる。子どもの頃相当辛い思いをしたらしくてね、体が過剰に反応するんだ、もう大丈夫意識をそらしたから…」
神妙な顔つきをしていた香織は、意外な事を聞いた。
「剛の出身どこ? 」
「えっ? 北海道江別市、札幌の隣町だけど、それがどうかした? 」不思議そうに答えると香織を見た。
香織は驚きの表情を浮かべてまじまじと剛の顔を見つると、顔を両手で覆って身体を震わせた。両手で顔を覆い泣きはじめた。
「ごめん俺何か悪い事言ったかな? 」
香織は首を横に振るだけだ。そして掛け布団を頭まですっぽりとかぶってしまった。
剛はどうしていいかわからなかった。




