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香織と剛の出会いもまた、諸岡誠が関係していた。
諸岡がとあるCMの撮影にクライアントの世話役として立ち会った。広告代理店『爽』が下請けのプロダクションに製作を丸投げした仕事だったので『爽』の立会いは諸岡だけだった。その時プロダクションマネジャーとして現場を仕切っていたのが、当時二十五歳だった江口(旧姓)香織だった。その頃香織はどこの事務所にも所属せずフリーランスとして仕事をしていた。この現場にも今回限りの契約で参加していたのである。
これまでの打ち合わせでは何度か顔を合わせていたが、現場での仕切りを見るのは初めてだった。でも、その無駄の無い動き、臨機応変の立ち居振る舞い、雰囲気の作り方といい全てに関心した。
こいつは使える──諸岡はピンときた。
諸岡は常日頃から剛と切磋琢磨できる人間が必要だと思っていたので打ってつけだった。それに年齢も同じ。剛はクリエイティブディレクター、香織はプロデューサーを目指していたので、年齢的立場的にも丁度いい。
CMが完成して一段落した頃、諸岡は香織を『爽』の近くにある喫茶店に呼び出し、剛の面接の時と同じように、会社のいいところを熱く語った。香織は初め驚いて話しを聞いていたが、次第に諸岡の人柄と『爽』という会社の社風に興味がわいた。
そして、「江口香織さんうちで一緒に仕事をしませんか、アシスタントプロデューサーとして社員になりませんか? 」の言葉に「やってみてもいいかな…」と思ってしまった。
しばらくして『爽』に入社した香織と剛は同世代ということもあって意気投合し、作品に対するお互いの思いをぶつけ合い、諸岡の思惑通り切磋琢磨する関係になった。剛は『爽』の仕事のやり方しか知らない、だからこそ外部の色々なやり方を身につけ、フリーランスとして生き抜いてきた香織の意見や仕事の進めかたは刺激的だった。




