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結城純恋は男にひたすら逢いたかった。愛していた。どうしていいか判らなかった。一向に電話が繋がらない事で混乱の度合いは更に強まった。
何もやる気が出ないまま、ソファに座っていた。気がつくと夕日が外を照らし、夜の帳が降りてきた。リビングの照明を点け、冷蔵庫から冷えた缶ビールを持ってきてソファに座り、ビールをグラスに注いで飲む。気持ちは落ち込んだまま、爽快感は全くない。
テーブルの上にある茶色い紙袋を見つめ無意識に中身をだす。ソファから下りてフローリングに座り込み取り扱い説明書なるものを読んだ。使い方や注意点が細かく書いてあった。
純恋は二日酔いで気持ちが悪かった。
純恋は今の状況から逃げたかった。
純恋はこれから先の事を考えたくなかった。
純恋は楽になりたかった。
純恋は…愛と現実の板挟みで精神が──疲弊していた。
そして、注射器で薬を体内に入れてしまった。決して弱くない、ビタミン剤でもない、悪魔の薬を使ってしまった。
結城純恋は現世での辛さに負けて自らを貶める運命を選択した。現世が全て魂の学びの場であり、個人個人に自由意思が与えられているとすると、運命の選択に正解不正解がある訳がない、選択によって学び方が変わってくるだけだ。
ただ、自分を含めた生きとし生きるもの全てにとって、魂を向上させ愛を育むために自らの行為がどういう意味を持つかという視点にたてば、善い行い、悪い行いは自ずと見えてくる。
いい種を蒔けばいい実が実る、悪い種を蒔けば悪い実が実る。神の摂理はその実を刈り取るのは種を蒔いた本人だけであるという。結果は生きていようが死んで魂だけになろうが必ずついてまわる、一度の人生で苅りとれなければ、何度でもやり直す事になる。
マザー・テレサは言った「神は乗り越えられない試練は与えない」──しかしその試練を作っているのも己なのだ。
その事が全く判っていなかった。
安易に逃げた代償は大きい。
この事が多くの人間に影響を与えるなど考えもしなかった。