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梨花子先生は教室の中を見て驚いた。
校長先生が手に余るほどの花束を持って立っていたのだ。
「さあ中へ」副校長がそういうと一歩中へ入る梨花子先生。
「ありがとうございました加藤先生、いや梨花子先生、これはみんなからの気持ちです」
校長先生が花束を手渡すと拍手が起こった。三年一組には全校生徒四十九人とその後ろには全ての教員が立って梨花子先生を見つめていた。
黒板には『梨花子先生ありがとうございました』の文字。その前には一脚の椅子が置かれている。椅子の横には小学校三年生の剛が照れ臭そうに立っていた。
「梨花子先生この椅子に座って」
「う、うん」校長先生にエスコートされるように椅子に近づく梨花子先生。
拍手が鳴り止まない。
梨花子先生が花束を膝に置いて椅子に座ると、剛は指揮者のように手を挙げた。静かになる教室。みんなの列に加わる宏、怜ちゃん、副校長先生。校長先生は全員の顔を見回して嬉しそうだ。
そんな中で剛は言った。
「この町を故郷だと思っていつでも帰ってきてください」
そして指揮を始めると全校生徒と全教員による「故郷」の大合唱が始まった。




