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──剛の意識は再び教室に戻った。
三年一組の教室には梨花子先生だけがいなかった。それを見た剛はピンときた、これは梨花子先生とのお別れ会だ。
その年の一月、始業式の時は梨花子先生はもう一年このクラス受け持つ事になりましたと挨拶していたが、三月になると突然、家庭の事情で先生を辞める事になりましたと子どもたちに告げたのだ。
三年一組は大騒ぎになった。みんな泣きながら残って欲しいと訴えたし、保護者も一緒になって校長や副校長、同僚の先生に事情を聞いたが、個人情報なのでお答えできませんという回答しか返ってこなかったのである。
勿論、先生たちは全員事情を知っていた、でも子どもたちを悲しませたくないと梨花子先生から強く口止めされていた。
梨花子先生も子どもたちに「本心は辞めたくありません、心からみんなの事が大好きです」と涙ながらに訴えた。
何が梨花子先生の周辺で起きているのか子どもたちも父兄も知らなかった。梨花子先生はこの町で一人暮らしだったので、先生の身内の事など誰も知らなかった。
そして三月になっていよいよお別れの時が近づいてくると、みんなで感謝の気持ちを伝えようという事になり校長先生にも相談した、校長先生は大喜びで子どもたちの申し出に協力する事を約束した。そして他の先生にも協力を求めた。
決行日は終業式前日の帰りの会。場所は三年一組。
学校中でこのことを知らないのは梨花子先生だけだった。




