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音楽室では三年一組が合唱の授業を受けていた。男子五名女子四名、三年生は一クラスしかない。勿論、その中には小学校三年生の自分もいた。天井あたりに浮かんでいる剛の意識は全員の顔を覚えていた。音楽を教えているのが加藤梨花子先生。先生も当時のまま、若々しい二十五歳のままだった。
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兎追ひし 彼の山
小鮒釣りし 彼の川
「そうこの町を思い描くように想いを込めて」加藤梨花子先生はピアノで伴奏しながら大声でいった。
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夢は今も 巡りて
忘れ難き 故郷
『故郷』のところをダミ声でがなりたてるように歌う、小学三年生の永澤剛、高橋宏、伊東純也。
ピッキーン! 梨花子先生の美しい顔が引きつる。
グシャーン、ピアノで不協和音をあげると怒った。
「またやったな剛、宏、純也」
三人は顔を見合わせて笑うと、音楽室を走り回った。大爆笑のクラスメート。ピアノから離れて追いかける梨花子先生。音楽大学を出て三年程してこの学校に赴任してきたので若くて機敏だ。




