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電車は真っ赤な鉄橋を抜けると剛の故郷、北海道江別市の街並みが遠くに見えてきた。といつの間にか、剛の対面座席には娘の佳奈を腕に抱き締めた剛の妻──永澤香織が現れた。香織は何の疑いもなく剛を見つめていた。
やがて剛が目を覚ました。
そして香織に気がつく。
「おや香織俺は寝ていた? 」
「ええ、さっきからずっと…」
「そうか…」
と、佳奈がぐずりだしたので揺すりながらあやす香織。佳奈は再び眠る。剛は車窓を見る。
「この電車はどこを走っているんだろう」
「私にも分からないわ、剛が来いっていうから来たんじゃない」
「俺が君を呼んだのかい? 」驚いた剛は香織を見た。
「さっき、私を呼びに来たじゃない。一緒にこの電車に乗ってくれって」
「──覚えてない」
「そう、変ね…」
「しかしこの電車は快適だな」
「そうね、快適過ぎるわ」
電車はガタンゴトンと線路の継ぎ目を通る度に音を立てているし、車窓の風景は勢い良く流れている。しかし、車内は全く揺れていない。気温も湿度も北海道の夏場のように涼しく快適だ。




