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──それは奇跡だった。
完全にトンネルが崩落し、レンタカーもライオンバスも潰れた。だが剛は潰れなかった。剛が乗っていた助手席は大きな岩に囲まれ小さな空間ができていた。足は潰れたダッシュボードと座席に挟まれて動かない。しかし、上半身は辛うじて動かせられる空間があったのだ。更に運転席を埋め尽くすコンクリートブロックの瓦礫の隙間からは、一筋の光線が注ぎそれとともに新鮮な空気が入ってきていた。
剛は気絶して──夢を見ていた。
故郷北海道らしき山の中を三両編成の電車が走っている。単線でレールは一組しかひかれていない。
天気は快晴、雲一つない。山の木々は濃く、生命力豊かにうっそうとしている。
電車は幾つものコーナーを抜け、山を一つ抜けると大河の上に掛けられた真っ赤な鉄橋に差し掛かった。剛は一両目の中程の座席で、窓際に肘を持たれて眠っていた。
車内には対面四人掛けのボックス席しかなく、木枠に青い布貼りの固めの座席だ。床も濃い茶色をしたフローリング。窓の上に備えられた吊棚はロープで編んであり、天井についている照明は丸く白いガラスでカバーされているものだ。
車両の連結部は黒い蛇腹で囲まれていて、一両目と二両目の間には引き戸がつけられているが、窓はすりガラスでお互いの車両が見えない。どことなく懐かしさが漂う昭和初期に走っていた車両に良く似ている。
一両目には剛の他には仕切りの向こうにある運転席に運転手が乗っていたが、仕切りに着いている小さなガラス窓からは、後ろ姿しか見えない。他の座席は空席だ。




