1-3
若い二人は、命を失う恐怖を身体中で感じていた。
しかし徐々に正面が明るくなってきた。トンネルに差し込む太陽光が出口を照らしているのだ。
「もう少しだ」と男性が思った時、前方天井のコンクリートブロックが降って来た。
「ああああー」男性はアクセルをもうひと踏みした。
ロードスターに向かって落ちてくる黒い影。
助手席の女性が上を見る。巨大化してくるコンクリートブロック──全く声がでない。
唸るエンジン。加速するスピード。
──間一髪だった。
ロードスターは大量のコンクリートブロックの下を潜り抜けた。ガゴン! ガコン! ガコン! 重低音が木霊する死のトンネルを抜け出た。それと同時にズズーン! 野太い音が辺りに響き渡ると沈黙が襲ってきた。
男性は青空が広がる直線の道でブレーキを踏んだ。
次第に速度が落ち、スピードメーターがゼロになっても、二人は正面を見たまま動けなかった。身体中ずぶ濡れで埃が纏わり付いていた。二人とも無言だ。
しばらくして男性が大きく息を吐くと、緊張の糸が切れた彼女が顔を手で覆いしくしく泣き出した。男性はそんな彼女の肩を強く抱き寄せた。
そして男性は恐る恐る振り返る。
トンネルだったところは土が埋め尽くされ不気味に黒かった。その隙間からは水が溢れ出し、山肌も陥没していた。




