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純恋を確認すると、すぐに顔は和らいだ。
金髪のモヒカンに二の腕には意味不明のタトゥーが入っているくせに時折優しいオーラを放つのが、このバーテンダーのいつものやり口だった。
「あらぁいらっしゃい、カウンターにでも座る? どうせ誰もいないしねぇ…」ボムはその風体には似つかわしくないお姉言葉でそういった。
ドアの前で寂しく立ちすくむ純恋。言葉がない。
ボムはカウンターを出て純恋の元へと行った。そしてドアを開けて木製看板を裏返した。そこには『本日閉店』の文字が書かれている。怪しげなこのバーの流儀で『本日閉店』となっていたら電気が点いていようが、中に人がいようが入ってはいけない。ドアノブを開けようとしただけで酷い目にあう事を常連客は身に染みて判っていた。
ボムはドアを閉めて鍵をかけた。
そして慰めるように優しく言った。
「まあ座りなさいな、この店にはテレビもないし、誰に気を遣うこともないわ」
「う、うん」
純恋はゆっくり歩を進めカウンターの丸椅子に座った。後を追うようにボムはカウンターに近寄ると、中に入って純恋と対面する。
「さてはあの男と何かあったのね」
項垂れていた純恋は堪えきれず両手で顔を覆うとすすり泣いた。
「さては週刊紙にスッパ抜かれた? 」
何度も頷く純恋。
「…今日は私が一杯奢るわ、まあ飲みなさい」生ビールをグラスに注ぐと、純恋の前に出した。
無言の純恋。
「さあ、冷たいうちにお飲み、元気出して、ユキミン」
「うん」
意を決した純恋はグラスを持つと一気に飲み干した。
「そうそう、その意気よ」ボムは不気味な笑顔を振りまきながら純恋を見つめた。それは獲物を見つけた肉食獣そのものの目つきだった。
ボムはカウンターの下に置いてあるポーチを取り出すと、中から小さな茶色い紙袋を取り出した。その中には通称『よく効く風邪薬』のお試しセット──1回分の覚醒剤と注射器、取り扱い説明書が入っている。通常ボムは店内で薬のやり取りはしない。注文を取って金を受け取るだけだ。それも飲食代として…受け渡しは後日指定した場所に代理人が行って行う。これがボムの本業、覚醒剤のバイヤーである。