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何度か路地を曲がり、区役所通りの裏にある三方を古い雑居ビルに囲まれた行き止まりの正面にあるビル。麻雀屋に小さな居酒屋、ほとんど人の出入りがない事務所が入った四階建ての地下一階にそのバーはある。看板すら出していないので、知る人ぞ知る店。雰囲気はどことなくうらびれていて怖い。余程の事がない限り、一般人は入らないだろう。
純恋はとにかく混乱していた、でも、自分の恋心には嘘がつけなかった。これだけ愛してる、愛してる、どうしようもなく愛してる。
きっとあの人も同じ想いに違いない。
いや同じ想いでいてほしい。
雑居ビルに着くと迷わず地下へと続くコンクリートの階段を一段一段足早に降りた。
店の電気は点いていた。『開いてます』の小汚い小さな木製の看板もドアにかかっている。絶対待っててくれる、待っていて。
ノブを力強く握りしめると一気にドアを開けて店内へと一歩進んだ。
中を見渡す──ガチャン!
立て付けの悪いドアが背後で閉まる。
──いる訳がなかった。
それどころか、客は一人もいなかった。
ホールの隅にある四人掛けの小さな木製のテーブルにも、カウンターにある五席の丸椅子にも人っ子一人いない。いたのはカウンターの中に立って鋭い視線を送ってきた、小太りで短いモヒカン頭のボムさんと呼ばれるバーテンダーだけだった。