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入って来たのはゆうくんのお母さんだった。ゆうくんの不安げな表情が一転して、ぱぁっと太陽のような笑みを浮かべると勢い良く立ち上がった。
「ゆうくんおいで」まみ先生がゆうくんを見て声をかけた。
「じゃあなたっちゃん」
「うん」
「バイバイ」
ゆうくんはお母さんの元へ駆け寄るとしがみついた。
「ゆうくんおかえり」お母さんはそう言うとゆうくんの手を握った。
まみ先生はお母さんに、今日のゆうくんを簡潔に伝えるとゆうくんとハイタッチ、二人は教室から出て行った。
それから更に二人、お迎えが来て教室からいなくなった。残りは七人。
達也は寂しい、と開いたドアからお母さんの顔が見えた。
「やったーお母さんだ」
達也はそう叫ぶとドアに向かって走った。まみ先生が振り返って達也を呼ぼうとした時、既に先生の横を走り抜けていた。
「たっちゃんーあら早いね」微笑むまみ先生。
しかし教室に入って来たお母さんの手を里奈が握っていた──それを見た達也はちょっと寂しい。
でも里奈は達也に会えて大喜びだ。
「お兄ちゃん、一緒に帰ろ」満面の笑顔で達也に言った。
「うん」なんとも照れ臭く里奈が少し憎らしくもあり、可愛い、微妙な感情がいつも湧いてくる。
まみ先生はお母さんに今日のたっちゃんを簡潔に伝えると達也に向かって言った。
「たっちゃん明日の遠足楽しもうね」
「うん」元気に応える。
「じゃあタッチ」
二人はハイタッチを決める。
『さようなら』声が揃った。
幼稚園が終わるのが二時半、延長保育を頼めば五時まで預かってくれるが、ほぼ頼まない。そして幼稚園を出るのがいつも三時近くだ。




