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「覚えてねえな純也」
「ああ、全然思い出せん」
「そっか、背中の傷と関係あると思うんだけど、全く思い出せない」
剛の背中には三十センチ程のミミズが這ったような形の傷が五つついている。小学生の剛は傷に関する事を思い出そうとすると、身体が過剰に反応して、息苦しいというより息ができなくなる程になった。それは大学生になっても変わらない。二人はそんな様子を見ると痛々しかった。
だから小学生の時から二人は何も言わなかったし、剛もその事を考えないようにしていた。
「親父とお袋さ、俺が大人になって苦しまなくなったら、その時何があったのか教えてくれるって言ってたのに、もう聞けなくなったじゃないか」
下を向いて肩を震わせた。
「我慢すんなよ剛」宏が言った。
「宏も俺も剛も二十歳になった。もう子供じゃないっしょ。我慢しないで思いっきり泣けや、泣くだけ泣け」
「そうだべ、ブチまけろ、今日は聞きに来たんだ」
剛は顔を上げた。そこにはあの頃から、一まわりも二まわりも成長した宏と純也が真っ直ぐな目で剛を見つめていた。
そして堪え切れなくなり、震える声で取り留めない両親の話を始めた。二人も両親の事はよく知っていたから、時々相槌を打ちながら話を聞いた。
そしていつの間にか、宏と純也も涙目になっていた。




