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事故の前夜、剛は実家に電話を入れ父親と話しをしている。
「仕送り入ってたありがとう」
「元気でやってるか? 学校はどうだ」
「今、西洋美術史の授業受けてるんだけど超面白い。それに冬休みに撮影した短編映画がショートフィルムのコンテストで最優秀賞をもらったぜ」
「ああ、いかったな」
「そっちはどう? 」
「今年は雪が多かった、ようやく全部解けたべ」
「夏休みには一度帰るから待っててな」
「分かった。母さんに代わるか? 」
「これからバイトだからまた電話かけるよ、そう言っておいて」
「分かった、したらな」
「うん、したっけな」
今思えば、あの時母親の最期の言葉を聞いておくべきだった。後悔の念が取り巻く。
のほほんと気ままに大学生活を送っていた剛に、次から次へと現実の荒波が押し寄せて来る。何をどうするべきか、自分はどうすればいいのか? 混乱する頭、悲しみと怒りで錯乱する心、次第に視界が涙で歪んでくる。
その時、玄関の呼び出しベルが鳴らされた。
ピンポン! 無機質な音がリビングに響く。涙を拭うと玄関へ向かった。
「はい」




