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二日前。純恋はマネージャーからの電話で失意のどん底に落とされた。
半月ほど前に、妻子あるあの男──イケメン俳優とホテルから出てきたところを盗み撮りされた。その写真が掲載された発売前の週刊誌が所属事務所に送られてきた──差出人は出版元の編集部だった。この事は事務所にとって青天の霹靂だった。純恋が誰かと付き合っているなど、誰も把握してなかった。マネージャーの後藤は、すぐに休暇中の結城純恋に電話をした。
純恋は今日と同じ自宅のリビングで電話を受けた。内容を聞くにつれ、純恋の顔からは血の気が引いた。どうして付き合っているのがばれたのか? 全く判らない。誰かリークしたのか? 付き合っているのはあの男と自分以外知らない筈だ。困惑する純恋に後藤は自宅謹慎を言い渡して電話を切った。
純恋はその場にへたり込んだ。しばらく呆然としていたがあの男に電話をかけてみた──繋がらない。何度かけても繋がらない。
後藤が帰りひとりぼっちになった純恋は、現実と恋心の狭間で精神が疲弊していった。十六歳の時から十一年間、少女たちが体験する普通の生活など経験した事がなかった。友達と遊びに行ったり、恋愛をしたり、全く出来なかった。それは自分で選んだ道だから後悔しないと、自分で自分に言い聞かせてきたが、初めての恋愛経験が残酷にも自分の全てを奪い去ろうしている。でも、純恋はあの男をどうしようもなく愛しているのだ。どうすれはいいのか? 判らない。それを相談する友達もいない。
結城純恋は美しすぎた。それに溢れんばかりの才能を持ち合わせていた。女性も男性も問わず共演する誰もがそんな純恋に嫉妬した。その結果、親しくなる前に離れていった。誰もが自分の仕事を横取りされそうな危機感を感じ、仕事さえ終わると自分のテリトリーに入れたくなかったのだ。純恋はひとりぼっちだった。常にひとりぼっちだった。あの男を除いては誰も親身に付き合ってくれなかった。
しかしそれさえも単なる遊びだったのだろうか?
答えの出ない疑問が渦巻き純恋の心にグサグサと剣が突き立てられ、痛みと不信感が大きくなっては愛しているという感情だけで踏みとどまる。繰り返される感情の起伏は、自分ではどうすることもできないほど心を混乱させていく。