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由紀は携帯を耳から離すと、力無く身体を椅子にもたれ電話を切った。虚ろな目からは涙が溢れた、止めどもなく溢れ、身体中が小刻みに震え始めた。諸岡が由紀にいった。
「間違いないか──」
由紀は溢れる涙を拭おうともせず目を閉じると、何度も頭を縦に振った。
松永由紀はプロダクションマネジャーとして後藤とは連絡を密にしていた。そして、打ち合わせでは常に結城純恋のそばにいて、何かと世話を焼いていた。
それだけでなく、心を通わせる為にテレビ局の控え室に差し入れを持っていったり、話し相手になる事もあった。とにかく由紀は、純恋とスタッフの距離を縮め、撮影では純恋に伸び伸びと演技をしてもらえるように、何かと理由をつけては会いに行き顔なじみになれるよう努力していた。
茫然自失──諸岡はそんな由紀に声をかけた。
「今日はビジネスホテルをとってゆっくりお風呂にでも入りなさい。俺がそのくらい出してやるから」
堪え切れず声を上げて泣き出す由紀。
「後の事は俺と剛でなんとかする。とにかくゆっくり休みなさい」
「う…うん」
由紀の頭を撫でる諸岡。
「明日でいいから、撮影中止の連絡を各所に入れておいてな、俺たちはこれから群馬の本社工場に行って朝一で社長に会ってくる。なーに付き合いは長いからなんとかなるさ」




