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午後十時になった。
第一会議室の片づけを終えた諸岡、剛、由紀の三人はクリエイティブ部の片隅にある打ち合わせコーナーで雑談をしていた。
「由紀今夜どうする? 」剛が言った。
「そうですね、撮影用の備品を今日中に整理しときたいので、多分泊まりですね。第一会議室の片隅が私の寝室です」
「寝袋新しいの制作費で買っていいぞ、ダニだらけだろ、痒くない? 」テーブルの隅でテレビを見ていた諸岡が言った。テレビは三清山賀製薬が提供するグルメ番組を放映していた。
「下に敷くクッションも買っていいっすか」
「おお、許す」
「本当、いいんですか? ラッキー明日ネットで買おうっと」嬉しそうな由紀。
「あれ俺が使ってたやつだから、もう古いよな」剛が言った。
「一応虫干ししてるんで痒くはないですが、綿がもうヘロヘロです」
「伝統の一品だ」
「そうだ、佳奈は元気か? 」諸岡が思い出したように言った。
佳奈とは生まれて三ヶ月になる剛の娘だ。
「もうめんこくて食べちゃいたいです」
「香織さんの調子はどうですか? 」香織は去年結婚した剛の妻だ。結婚するまでアシスタントプロデューサーとして『爽』で働いていた。諸岡の部下でもあり由紀も何度も一緒に仕事をした。
「すっかり元気、出産の時あれだけ苦しんだのに今じゃケロリとしてるよ。寝不足だけど」




