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諸岡は入社した剛に自分が学んできた全てを教え込んだ。プロダクションマネジャーとしての仕事に加え、自分が提出する企画書は剛にも書かせて添削した。将来の自分を思い描かせ、ディレクターとしての物の見方を叩き込んだ。その中でも、特に重要視していたのが企画の切り口だった。
入社三年目の時、剛が持ってきた企画案を読んで諸岡は怒鳴り散らした事がある。
「駄目だ駄目だこんな切り口じゃ全く駄目、クライアントに見せられっかってんだ」
そう言いながら諸岡は企画案を丸めて剣のように振り回した。
ムッとする剛、「でも諸岡さん内容には自信があります」
「お前の思いだけでつらつら書いても、スパッとした切り口でクライアントを取り込まないと全然駄目なんだよ、こんなんやり直しだ」
縦に横に、スーツを着たサムライは、丸めた企画案を剣のように振り回す。
「諸岡さんはいつも切り口、切り口って言いますけど、なんですかソレ」
「馬鹿たれ! そんなん教えられるかってんだ、企画の骨子を、斜めに切るか、縦に切るか、はたまた円を描くように切るか、逆さまから切るか、剛はどれが正解だと思う? 」
「…」
「ああー」
「分かりません」
「こらっお前は大学出てうちに来て、何年になるんだ」
「三年です」
「三年もやってるのにまだ分からんのか」熱くなる。
「分かりません」
「ほんっとに、全部正しいんだよ」
「はぁあ」




