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社長の安斉は常日頃から、社員も外部スタッフも家族のように付き合う事を徹底していた。その徹底ぶりが仲間の喜びを自分の事のように喜ぶ社風を作り上げた。
人は誰でも欠点がある、欠点を指摘するのは簡単だが、時にはぶつかり、時には同調し、お互いの欠点を長所に変えていく努力をしてこそ作品の質が何倍も良くなる。その為には家族のような付き合いが大切だ──それが安斉の経営哲学だった。
剛はにこやかに笑顔を振りまきながらも本題に入っていった。
「さて今回の三清山賀製薬さんの新商品ですが、もう皆さんも知っているとおり、他社に押され気味のスポーツドリンクの売り上げを一気に巻き返そうというものです。その為とことん爽やかな飲み口にこだわっています。そこで私たちが提案したのが『はじける! パールの爽快感!』という切り口です。これがCMを始め、紙面媒体、販促物、試飲キャンペーン、スポーツイベントの後援等、商品イメージ作りの全ての切り口、そしてキャッチコピーにもなるので、もう一度徹底したいと思います」
三清山賀製薬は社運を賭けて、新商品の売り込みに巨額の予算を掛けている。その全てを広告代理店『爽』一社で請け負っているのだから失敗は許されなかった。その結果提案された切り口━━統一イメージこそが『はじける! パールの爽快感!』だった。
横にいた諸岡誠は堂々と打ち合わせを進めていく剛の態度に目を細めていた。父親代わりとして剛の成長が嬉しかった。
それに、切り口にこだわって商品のイメージ作りを進めるのは諸岡が徹底的に教え込んだ事でもある。