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仕事帰りの女性が、その地面を歩いていた。何時ものように会社から帰っていた。その目の前に人間が頭から落ちてきた。そして、勢いよくアスファルトに叩きつけられた。
グシャ!
歩いていた女性は何が起きたのか判らなかった。ほんの五〇センチほど先に落ちてきた物体を見つめた。街灯に照らされたそれは、頭蓋骨が割れ、脳味噌が飛び散っていた。手足は普段なら決して曲がらない方向に向いて、腰はくの字を描いていた。
女性はヘナヘナと地面に座り込んだ。
その足に襲いかかるように、頭蓋骨から噴き出したドス黒い血が溢れ出てきた。女性は余りにもの出来事に声が出せなかった。血溜まりに囲まれ目を引きつらせ硬直していた。
異様な光景に気がついた通りがかりのサラリーマンが数人集まってくると、あるものはへたり込んでいる女性を介抱し、ある者は警察へ電話を入れた。
そこに後藤が通りかかった。人だかりができて騒ついているのを見て、胸騒ぎが一層激しくなり何事かと近づいた。そして地面に落ちている物体を凝視した。
一目で分かった。
紛れもなかった。
変わり果てた姿の結城純恋がそこにあった。
こうして結城純恋は二十七歳という短い人生を終わらせた。
純恋は現世で最大の過ちを犯してしまった。結果的には自ら死を選択した。
神は乗り越えられない試練を与えない、つまり自由意思の中に自ら死を選ぶという行為は含まれていないという事だ。なぜなら乗り越えるのが学びならば、自ら死を選ぶという事は乗り越えられる筈の学びを放棄するという最悪の種を蒔いた事になる。それは向上を目指している自らの魂を根底から否定する事になるからだ。
その事に純恋は気がつかなかった。




