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純恋は鳥籠を見た。外からの白い光はセキセイインコの姿をはっきりと映し出していた。
翼の緑が美しい。純恋はたどたどしい足取りで近づくと、扉を開けて指にのせ籠からだしてやった。籠の中の鳥と自分が重なり、いてもたってもいられなかったのだ。泣いていた、純恋は泣いていた。自分の状況を悲観して哀しみで心を満たしていた。
セキセイインコは指の上でしばし躊躇していたが、光が差し込むベランダまで一気に飛ぶと手摺りに留まる。
そして、隣りの高層ビルの窓の真白な灯りを目指し外に飛び立った。
純恋はその姿を見て自分も飛びたいと強く思った。
そこに再びあの男の声で幻聴が聞こえてくる。
「お前が飛べるか? 今の状況から飛び出せるか? 」
あざ笑うその声に反発するかのように純恋は大声を出した。
「私だって飛べる、この状況から飛び出すわ、自分で飛んで自由を手にするの」
とその時、ベランダから心地よい風が吹き込んできた。純恋はその風に誘われるようにベランダへ行くと手摺りに掴まった。
「本当に飛べるのか? 自由になるなら飛ぶしかないぞ、ふふふははは」再び幻聴が聞こえてくると純恋は微笑んだ。
そして手摺りに両足を乗り上げると、高層ビルの窓から発せされる白い光線に向かい両腕を羽ばたかせ足を蹴った。
「私は自由になる」
ふわりと体が宙に浮かぶと、次の瞬間、二十二階の高さから頭を下に真っ逆さまに落ちて行った。
連なって勢いよく上へ上へと過ぎていくビルの灯り。照らされて浮かび上がるシルエット。美しかった。まるで天使のように見えた。
髪は美しく靡き、赤いエレガントなワンピースは天使の纏う羽のようでもあり空を自由に飛ぶための翼のようでもあった。全ては結城純恋という美しい個体が、生命力の全てを使って演じている最期の姿に違いなかった。
そして数秒後地面が近づいてきた。
既に純恋の意識は無かった。