4-1
「──剛くん」先生は涙を流して聞いている剛に呼びかけた。
「はい」
「苦しくならないでしょう? ここは現世じゃないから肉体の苦しみはありません」
「…」
「だからこれから先はあなたが自分で思い出して、自ら今の状況を乗り越えなければならないんです」
カチリ、駅舎の時計塔の長針は三時の辺りに一メモリ進んだ。
「梨花子先生、本当にありがとうございました」深々と頭を下げた。
「よして剛くん、お礼を言うのは私の方です。剛くんを助けたお陰で私は少しも苦しまず安らかに死ねました」と、梨花子先生は改札の付近を見た。
「あ、彼女剛くんに引き寄せられて来た」
顔を上げた剛は車窓から改札付近を見た。改札の向こうに現れた女性は赤いワンピースに腰まである長い髪。目は焦点が合っていない、どこを見ているのか見当もつかなかった。
剛は驚いた。
「もしかして、結城純恋さん? 」
「そうです」
「彼女もこの電車に乗るのですか? 」
結城純恋は改札を抜けようとするが、見えない壁にあたって進めない。
「この電車には乗れません」梨花子先生ははっきりとした口調で言った。
「どうしてですか? 」
「魂が帰るのは同じ故郷でも、行き先が違うからです。剛くんたちとは正反対の暗くどんよりとした下層の、同じように自ら命を絶ってしまった魂と同じ階層に行くからです」
「…」
「もしかすると少しの間現世をさまようかもしれません。あの男の事が吹っ切れるまでは」
「あの男? 」
「剛くんは知らないでしょう、でもそのうち知ることになります」
「…」