逃げたい
テレビは見ない。ありもしないうわさ話ばかりで悲しくもなり、怒りも生まれそうになるから。
葉『いいえ、友達です。』
葵のいる病院。母親と父親は仕事で平日の昼間はいないと聞いた。
搬送されたときは出血が酷く、集中治療室に収監された葵も通常の病室に移動した。しかも個室だという。
葵『・・・!?』
葉『よっ。』
葵は嬉しそうな表情を見せるわけでもなく、俯いてしまった。
側に居てあげることが出来なかったことを葉が詫びると葵は何のことかわからないと嘯いた。
葉『人見大輔のことも?』
葵『あー・・・覚えてたんだ。』
葉『事件の直前だったから、当たり前だろ。』
葵『怒らなくても良いと思う。』
確かに。話してみると意外に元気そうな葵。他愛ない話で事件前の二人に戻りかけたが。
葵『テレビは観てるのか。』
葵『報道番組以外は。だから、何が起きたのかもよくわかっていない。』
葉『まさか、千香のことも?』
葉の一言で葵は泣き出してしまった。友達を裏切ったことで、加害者と被害者になってしまったこと。それがどちらなのかもはっきりとわからない。わかりたくない。
そのキーワードを耳にしたから心の痛みが増し、大粒の欠片達が溢れ出してしまった。
葵『私の仮説信じていい・・・?』
葉は深く頷し、葵を包み込んだ。不思議と以前のような卑しい感情は湧いてこない。代わりに得体の知れない懐かしさが込み上げてきた。
葉『まだ傷口痛むんだろ。』
葵『感覚が無いから痛くない。』
葉『嘘つけ(笑)』
葵『そっちだって。』
葉は返す言葉がない。不意を突かれた?いや、胸を抉られた。
葵の言葉は嘘くらい誰でもつくでしょ。という意味なのかもしれないが、心当たりのある葉には他人事とは思えなかった。
だから、葵にごめんと呟いた。葵はそれについて問う。どういうこと?
葉『こんな事になって、これからどうする。どうなる。どうしたい。』
質問を誤魔化すように質問で返す。
葵『逃げたい。』
葉『ん?』
葵『これからの事を聞かれたら逃げたいって思った。』
葉『は?』
葵『それほど、ここに一人でいることが不安だから。』
聞けば、千香に刺されてから襲われる夢を毎晩見るらしい。もしも、叶うなら退院したら二人で逃げ出したいと笑いながら葵が言う。
葉『退院したら寂しさもなくなる。今までと同じ・・・。』
葵『ちかりん、いないよ。』
確かに千香がいなければ今までと同じ生活には戻らない。葉はそれを望んでいた。
葉『ああ。もう会えないかもしれない。』
未練はない。未練を見せてはいけない。
葵『初恋の子に会えなくなるって寂しいよね。』
葉『初恋じゃないんだよ。』
綾乃の事について喋った。その事で一つの選択肢が無くなることはわかっている。
気がつくと、もう夕方。葵の親と鉢合わせたくなかった葉は、葵にまた来ることを伝えて病院を後にした。




