ヒーロー
数日後、学校では事件のことについての全校集会が開かれた。
葉と千香の仲は周知の事実。隠す必要もなく、葉は女子から質問攻めにあった。女の勘は恐ろしく、事件の真相をほぼ言い当てたような憶測も流れた。
晴樹『外野の癖に勝手なこと言うよな。』
葉『まあ・・・。』
男友達は葉に同情的だ。壊れた千香が起こした事件に振り回される必要はないと。
葉は真実を話せる相手が欲しいと思った。父や母、妹には話せない。あまりにも近すぎる。
女友達にはアテがない。男友達では同情を欲してるようで気恥ずかしい。
家族のように近くなく、男友達のように変に同情的でなく、自分を理解してくれるだろう女友達。言うなれば優しい彼女に真実を話したいのだ。
アテがなければ探せばいい。
葉『なあ、晴樹。綾乃の番号って消してないか。』
晴樹『お前、消したのか。』
葉『千香に言われて番号もLINEも消したんだ。』
晴樹『そういうことか。』
教えてもらった番号に掛けてみる。留守電だ。
葉『えーっと、由井綾乃の番号で間違いないよな。間違いなければ折り返し・・・。』
綾乃『葉?』
葉『久しぶり。』
綾乃『ごめん、知らない番号だったから・・・。』
葉『いいんだよ。晴樹から教えてもらって掛けてる。』
綾乃も番号を消していた。それでもいい。月日は流れている。事情を話すと綾乃は驚いたような声で応えた。
どうやら、テレビやネットを見る暇もないらしい。
葉『俺はどうすればいいと思う?』
綾乃『わかんない。でも・・・。』
言葉に詰まるのは特別な思いが透明な壁を作り出しているから。
葉『どんなアドバイスでも構わない。』
笑ってくれても、叱ってくれても。そう思っていた葉に予想外の反応が返ってくる。綾乃は鼻をすすっている。
綾乃『千香を捨てちゃダメだよ。その葵って子も捨てないで。』
どうすればいい。二人を捨てきれなかったから事件が起きた。葉は事情を詳しく話す。綾乃は・・・
綾乃『どっちかを捨てる気?』
千香。躊躇なく答える葉に綾乃の鼻すすりがはっきりと鳴る。
それに対して風邪かと聞く葉。鈍感は中々治らない。
千香のために引いたのに、千香を捨てると言った葉に悲しくて堪えているのだ。
綾乃は千香を捨てるのならば何故、葵の側に居てあげないのかを問われた。
葉『怖いんだ。』
指名手配犯のような気持ち。顔の見えない群衆が監視している。本当はずっと側に居たい。
綾乃『漫画とかドラマの世界では主人公がその場に居ないと、物語は停滞してしまうんだよ。』
葉『主人公?冗談はよせよ。俺なんてただのモブ。』
綾乃『モブはそんなに感情豊かじゃないと思う。』
葉『だからと言って俺が主人公なわけ・・・。』
綾乃『じゃあヒーロー。みんなから愛されるヒーロー。私も好きだったヒーロー。』
綾乃との通話が途切れた。電波が悪いのか、再度かけ直しても綾乃は出なかった。
近くにいたはずの晴樹もいつの間にか姿を消しており、空は夕焼けで真っ赤に染まっていた。
その暖かい色に見惚れていると、晴樹が戻ってきた。長えから暇つぶしていたらしい。一体何時間、綾乃と話していたのか。葉は時計を見て立ち上がった。まるでヒーローのように。




